2006年06月16日

宇宙科学理論での試み

 前回の「ビックバン以前の宇宙」の続きとなりますが、今回は、《時のはじまりはいつだったか》を考察するに過程で、「宇宙科学理論での試み」 についての話をします。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。
blockquote>参考文献:
日経サイエンス 2004 年 8 月号 
別冊日経サイエンス『時空の起源に迫る宇宙論』
「時の始まりはいつだったのか―ビックバン以前の宇宙」
原題名 The Myth of the Beginning of Time
( SCIENTIFIC AMERICAN May 2004 )
監修:前田 恵一
訳者:鳥居 隆
筆者 Gabriele Veneziano(欧州合同原子核研究機構) 
 何分、多忙なスケジュールであるため後日編集してあげる予定にしています。

 お楽しみに…。



▼時空の特異点を回避するに…

 科学理論上での考察においては、時空特異点が避けられないというのは深刻な問題であるといいます。

 宇宙は巨視的に見ると非常に対称性が高く、「一様等方」とよばれる性質をもちますが、これは時空特異点があったという考えとは合い入れぬ考え方です。

 宇宙が広い範囲にわたって似たような姿をしているからには、遠く離れた領域の間でも何かしらのやり取りが行なわれ、性質をそろえるような過程があったはずだ、とヴェネツィアーノはいいます。

 話をわかりやすくするために、どの背景にある暗黒の宇宙から飛んでくるマイクロ波、宇宙背景放射がビックバンかの 37 万年後に発してから現在までの 137 億年間に、宇宙がどのような進化をしたかを見てみましょう。

 この間、宇宙は膨張を続け、銀河間の距離は約 1000 倍になりました。一方で、観測可能な宇宙の範囲は 10 万倍になっています。光の速度は宇宙が膨張する速度より速いため、観測可能な範囲の方がずっと急激に大きくなります。

 この観測可能な範囲とは、その場所から放射された光が地球に達している範囲のことをさします。その範囲は、毎年、光が 1 年に進む分だけ広がります。

 現在の私たちは、137 億年前には見ることができなかった宇宙を見ています。実際に、最近、これまでで最も遠く離れた銀河の光が観測されました。今になってようやく観測可能な範囲に入ってきた銀河です。

 にもかかわらず、そうした銀河までもすべて、基本的には私たちの銀河系と同じ性質をもっています。

 それは、例えて言えば、パーティーに出席したら 10 人の友人が自分と全く同じ服を着ていたようなもので、もし同じ服が 2 人だけならただの偶然かもしれませんが、しかし 10 人もとなると、前もって打ち合わせをしていたとしか考えられない、とヴェネツィアーノはいいます。

 宇宙では、その数は 10 どころではありません。宇宙背景放射を解析すると、それぞれが独立な領域でありながら、統計的に見ると非常に似通っている部分が、全部で実に数万個もあります。

 これらの部分が皆、できた時からたまたま同じ性質を備えていたという可能性もないでない、即ち、一様性は単なる偶然にすぎないということだ、とヴェネツィアーノはいいます。

(しかし、これには偶然という座標をどこに置くかが問題で、たとえば、ヒト体内でプリオンタンパク質から変異プリオンタンパク質に置き換えられることはあっても、ヒトからブタは生まれません。)

 だが、物理学者はもっと自然な説明があると考えている、とヴェネツィアーノはいいます。即ち、初期の宇宙は標準的な宇宙論で考えられているよりもずっと小さかったか、または、ずっと昔から存在していたとの説明です。

 このどちらか、或いは、両方が正しいとすると、宇宙の離れた場所の間で何らかのやり取りがあったとしてもおかしくはないといいます。

 物理学者から強く支持されているのは前者です。宇宙のごく初期にインフレーションと呼ばれる加速的に膨張する時期があったとの見方です。インフレーションが起こる前は銀河や銀河の素になる物質はごく小さな領域に詰め込まれていたので、情報をやり取りすることは有分に可能で、性質が一様になったと考えられています。その後、インフレーションの膨張は極めて急激に起きたので、光はこれについていけず、宇宙の各部が互いに情報をやり取りできなくなってしまいましたが、インフレーションが終わると膨張は減速して光が追いつき、銀河は再び互いを観測にできるようになったと考えられています。

 インフレーションはビックバンから約 10^−35 秒後に、インフラトンと呼ばれる新たな量子場のポテンシャルエネルギーによって発生したと考えられています。質量や運動エネルギーによって生じる力は引力ですが、インフラトンはむしろ宇宙膨張を加速します。

 1981 年にインフレーションが提唱されて以来、この理論は様々な観測結果を制度よく説明してきました( A. H. グレース/ P. J. スタインハート「インフレーション宇宙」日経サイエンス 1984 年 7 月号)。

 しかし、現状では、この理論にも様々な問題が残っています。例えば、新たに登場したインフラトンの正体は何であるのか、なぜそのような莫大なポテンシャルエネルギーをもっていたのかなどはわかっていません。

 一方、あまり知られていませんが、後者の方法、即ち、宇宙はずっと昔から存在していた、という考えによって特異点を避け、宇宙の一様等方性を説明することも可能だといいます。もし宇宙がビックバンで始まったのではなく、現在の宇宙膨張の前にもずっと長い期間があったとすれば、宇宙の遠く離れたところにある物質が何らかのやり取りをして性質を一致させることも可能になるとヴェネツィアーノは言います。

 研究者たちは、時空特異点が必須だとの結論に至る論理の筋道を、1 つ 1 つ検証してきました。「相対性理論は常に正しい」という仮定も(現在はそのように考える研究者は少ないと梵は思いますが)疑ってみる必要があるとヴェネツィアーノは言います。それより、理論を捏ねるより観測することによって解明するしかなく、訂正はそれからだと梵は思うのですが…。

 時空特異点とみなされる点に近づくにつれて、重力の量子論的効果が大きくなり、ついには優性になるはずだとベネツィアーノはみています。アインシュタインの一般相対性理論では、そのような効果は考慮させていませんが、時空特異点が不可避というのは、単に現実とは異なる仮定をしてしまったために出てきた結果なのかもしれないといいます。

(注:ニュートン力学が現在でも有効であるように、一般相対性理論は観測によって証明されたものが多くあるわけなんですが、勿論、未完成なままアインシュタインが他界している分、問題点が残っている部分もありるんですが、やれやれ…。随分と、局所的な展開になっていますが、なんです…)



(...to be continue...)

 うぅぅん…。実証主義な梵は、懐疑心からちと止まります…。

 言い分を排除して実質的な考察だけをあげようか、考えてくるので中断します…。

### これまでの参考資料 ###
■時の始まりはいつだったのか
ビックバン以前の宇宙
posted by 梵 at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月15日

ビックバン以前の宇宙

 ホーキングが著作した『ホーキングは宇宙を語る』以降、教養番組でも 6 本の『ホーキングが宇宙を語るシリーズ』が製作され、前世紀末までディスカバリーチャンネルで放送されていましたが、この頃の物理学では、まず、ビックバン説が正しいのかどうかまだわからないといった状態でした。

 そして、現在では、ビックバンは宇宙の始まりではなく、共通点に過ぎなかったのかも知れない、といいます。

 最新の弦理論( 2004 年当時)によって、それ以前の宇宙が姿を現しつつあるといいます。

参考文献:
日経サイエンス 2004 年 8 月号 
別冊日経サイエンス『時空の起源に迫る宇宙論』
「時の始まりはいつだったのか―ビックバン以前の宇宙」
原題名 The Myth of the Beginning of Time
( SCIENTIFIC AMERICAN May 2004 )
監修:前田 恵一
訳者:鳥居 隆
筆者 Gabriele Veneziano(欧州合同原子核研究機構)
 上記の論文の筆者は、ホーキングが『ホーキングすべてを語る』において、ひも理論を説明する際、そのひも理論が元々は強い力を説明するにおいて考案されたものだったと説明していますが、その切っ掛けを産んだ一人がこの著者で、後に「弦(ひも)理論」を考案したことから、現在は、弦理論の父といわれてます。

 上記の論文は、物理学というよりも、科学理論の立場から理論展開されているため、物理学において知識として成り立っているものではなく、仮想的な理論展開が行なわれています。

 内容的には、科学理論モデルを知るにはよい材料だとは思います。

 しかし、梵としては、実証主義なので、まだ説明できるほどわかっていないのに、はじめから断定して書かれている、といった、本文の内容から、引っかかるところが多いので、あまりよいモデルでないのではないかと推測したりと、躊躇している梵なのでありますが、熟読してみれば、その論文展開とは、従来の相対性理論からの流れから移行させて考えるものではなく、それは量子論に傾いており、理論検証においては完全に中立な立場で科学理論上で展開されてあることから、理解しにくい内容になっているので、編集する速度が遅くなっているのであります…。

 さて…。どうしましょうかね…。

 とりあえず、梵の許容範囲内で、噛み砕いて示すとしますか…。



▼これまでの話

 ビックバンは、本当に宇宙の開闢なのか、それともビックバン以前にも宇宙の時は刻まれていたのだろうか――。ほんの 10 年前には、この質問はほとんどタブーだと思われていました。

 宇宙物理学者の多くは、ビックバンより前の時間を考えるのは北極点で北はどちらだと問うのと同じく、意味を成さないと考えていたといいます。しかし、理論物理学が発展し、とりわけ弦理論含む「ひも理論」を研究対象になってきてからは、そんな見方も変わってきたといいます。なぜなら、はじめ、強い力を説明するにひも理論が登場したからで、これを切っ掛けに、弦理論や超ひも理論や、M 理論などが登場してきたからです。

(但しホーキングは超ひも理論を懐疑的に見ているので、物理的に説明できる部分までしか認めていません)

 今や、ビックバン以前の宇宙の研究は宇宙論の最先端になっています。

 ビックバンより前には何が起きてきたのかを解き明かしたいという科学者たちの熱意は、千年も振れ続けてきた知の振り子を、再び大きく動かすことになりました。

 時は大昔、古代ギリシャ人たちは、時間の始まりについて激しく議論を戦わせました。アリストテレス( Aristotele )は時間に始まりはないという立場に立ち「無からは何も生じない」との原則を打ち出しました。もし宇宙が無から有へと転じることが不可能ならば、宇宙は常に存在していた筈です。

 これ以外にも理由はありますが、時間もまた過去と未来の両方向に、無限に延びていなくてはなりません。

《簡単に遡ってのお話》

 「時の始まり」を説明するならアリストテレスに始まるのですが、宗教思想が濃いプトレマイオスのモデルから、やはてヨハネス・ケプラーとガリレオ・ガリレイがコペルニクスの地動説を指示してそれまでの自然に対する知識を改良し、次に、アイザック・ニュートンが登場してその流れで古典物理学が作られました。しかし、それでは説明できない問題が登場したので、それらの問題を解決するにアルバート・アインシュタインは、物理学理論上矛盾しない説明を与えるに貢献しました。

 アインシュタインが提示した理論は、それまでの常識を覆すものでしたが、1919 年に太陽の傍で光が曲がったことを観測したことから、ニュートンの万有引力の法則を覆し、一般相対性理論の正しさを証明するものとして、アインシュタインは世界的な名声を得ました。

 アインシュタイン( Albert Einstein )の一般相対性理論によって、現代の宇宙物理学者はほとんど同じ宇宙像を思い描くようになりました。一般相対性理論では、空間と時間は柔軟なものだとされています。

 即ち、「重力によって光が曲げられ、時間の流れが遅くなる」といったものです。ニュートンは静止系の見解から「時間や空間は絶対的なもの」と見ていましたが、アインシュタインは絶対座標と絶対時間を疑い、慣性系は慣性の法則が成り立つと考えました。この慣性系は等価原理で成り立ちます。

 大きなスケールで見ると、空間は本来ダイナミックに膨張や収縮を起こしているもので、物質はそうした空間の運動に乗って、あたかも潮流の中の流木のように運ばれます。

 1920 年代の観測で遠くの銀河がお互いに遠ざかっていることが確かめられ、宇宙が膨張している証拠となりました。この観測事実と、ホーキング( Stephen Hawking )とペンローズ( Roger Penrose )の二人が 1960 年代に数学的に証明した理論とを組み合わせると、時間を無限にたどることはできないという結論に達しました。

 宇宙の歴史を遡っていくと、これらの銀河はすべて、あたかもブラックホールに落ちこんでいくかのように、1 つの無限小の点、即ち「時空特異点」へと押し込められていきます。

 銀河や銀河になる以前の物質はゼロの大きさにまで押し潰され、密度や温度、時空の曲率などの量は無限大になります。

 時空の特異点で宇宙は究極の大変動を起こしており、これ以前に宇宙の歴史を遡ることはできません。


▼宇宙の始まりに関する 2 つの説

 膨張する宇宙では互いに遠ざかっており、その速さは 2 つの銀河の距離に比例します。例えば、 2 億光年離れたところにある銀河どうしが遠ざかる速さは、1 億光年離れた銀河どうしの 2 倍となります。

 即ち、観測されるすべての銀河は、ある瞬間に同じ所から出発していることになりますが、これがビックバンにあたります。

 宇宙の始まりに関する 2 つの説とは、従来の「標準ビックバン理論」と著者考案の「弦理論に基づく宇宙論」です。


  • 標準ビックバン理論


  •  アインシュタインの一般相対性理論に基づく標準ビックバン理論では、銀河間の距離はある有限の時刻(ビックバン地点)でゼロになります。数学的に証明した理論とを組み合わせると、時間を無限にたどることはできないという結論に達しているので、それより前には時間という意味はなくなります。

  • 原理論に基づく宇宙論


  •  量子効果を取り入れたより洗練された(科学理論上のもので物理上ではまだわからない)モデルでは、すべての銀河はある最小の距離だけ互いに離れたところから膨張をし始めます。即ち、図に示せば、それは合わせ鏡の如く、ビックバンが起こった位置を境に存在すると仮定しています。これによって、量子効果を適用させた弦理論に基づけば、ビックバンによりも前に宇宙が存在していた可能性が出てくるといいます。


 上記のように、宇宙がかつて加速膨張したにせよ、原則膨張の時期があったにせよ、状況は変わりません。

 しかし、ビックバンによって互いに遠ざかり始めた瞬間に何が起きていたのか、確かなことはわかっていません。



(...to be continue...)

 長文となりそうなので次回に回します。

 次回は、「宇宙科学理論での試み」 についての話をします。

posted by 梵 at 11:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月06日

何故に微小ブラックホール

 粒子加速器を使って地上に小さなブラックホールを作り出そう――という理論物理学の研究から、びっくりするような構想が生まれてきた「隠れた次元」の存在など、時空の謎に迫る大きな実験が行なわれています。

 前回の「ブラックホールの作り方」に引き続き、今回は「何故に微小ブラックホールなのか」についてのお話をします。

 下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2005 年 8 月号 p.26〜34
「ブラックホールを製造する」
原題名 Quantum Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN May 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:白水徹也
筆者 Bernard J. Carr(ロンドン大学クリーンメアリー校) / Steven B. Giddings (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)
 二人は 2002 年、ホーキングの 60 回目の誕生日を祝う集まりで初めて顔を合わせたといいます。

 何分、未知な領域の物理学仮定であるため、誤解を受けやすいものであるため、慎重に記述している梵であります。理工系の知識を元に現実的なラインを追って示していきますが、どないなもんでしょうね…。

 前回に引き続き、差分編集しているので、すねあげに時間がかかっていますが、漏れがあるかもしれません…。その時はご容赦下さい…A(^-^;



微小ブラックホールの短い一生

 それはそれは、とても短い一生です。誕生時が時間 O だとすると 10*10^−27 〜 22*10^−27 秒で微小ブラックホールは一瞬のきらめきと共に無に帰します。

 あ―――。………。それは、とても小さなスケールでの出来事なのです。これを観測するのは実に大変です。

 そこで、現在の科学理論上で導かれた「微小ブラックホールの短い一生」についてみていくことにしましょう。(下記のものは仮定されている一つのモデルです)

    《微小ブラックホールの発生から消滅まで》

  1. 誕生

    • 時間: 0

    • 質量: 10TeV
     適切な条件での 2 個の粒子が衝突するとブラックホールができます。誕生直後は非対称な形をしており、回転や振動したり電荷を帯びたりしている可能性があります。(尚、時間と質量はおおよその数字で、1TeV は約 10^−24 kg の質量に相当するエネルギーをさします。)

  2. 「毛」がなくなっていく段階

    • 時間: 0 〜 1*10^−27 秒

    • 質量: 10 〜 8TeV
     状態が安定するにつれて、ブラックホールは重力波と電磁波を放出します。物理学者のウィラー( John A. Wheeler )の表現を借りれば、ブラックホールには「毛がなくなる」状態になっていきます。電荷とスピン。質量のみで特徴付けられ、その他には何の特色もない状態となります。電荷粒子を放出するにつれ、電荷も急激に流出していきます。

  3. スピンダウンの段階

    • 時間: 1*10^−27 〜 3*10^−27 秒

    • 質量: 8 〜 6 TeV
     ブラックホールは放射を発し、もはや《黒く》はなくなります。当初は放射に伴ってスピンが費やされるため、ブラックホールは回転速度を落とし、緩んで球状になります。放射は主にブラックホールの赤道に沿って出てきます。

  4. シュワルツシルト段階

    • 時間: 3*10^−27 〜 20*10^−27 秒

    • 質量: 6 〜 2TeV
     スピンを失ったブラックホールは以前にも増して単純になり、質量のみで特徴付けられるようになります。その質量さえも、放射や質量をもった粒子の流出という形であらゆる方向に流出していきます。

  5. プランクスケール段階

    • 時間: 20*10^-27 〜 22*10^−27 秒

    • 質量: 2 〜 0TeV
     質量がプランク質量(ブラックホールがとりうる最小の質量)に達すると、ブラックホールは一瞬のきらめきと共に無に帰します。尚、ひも理論によれば、ブラックホールは物質の最も基本的な単位である「ひも」を放つようになると考えられていますが、「ひも」についてはスケールが非常に小さいために明らかにすることが難しいために、これといった根拠は得られていません。

 ――で、実際はどうなんだ…?――と、教養番組や科学雑誌の内容から科学理論上の話で喧嘩を吹っかけられてしまう梵の家庭です。そこで、実際のところの話を示せば――。

 現段階では、ブラックホールが存在していることは多く発見されていますが、内部の構造がわからないので、その詳細な構造はまだわかっていません。そこで、これまでの知識で理論展開させて予想を立てているのが(宇宙物理学理論や)科学理論のモデルであり、観測で物理的な根拠を得ることです。


微小ブラックホールはどこに?

 物理学の進歩にはたいてい、実験に基づく方向付けが必要になります。そこで、微小ブラックホールによって提起された問題を切っ掛けに、その探索が始まりました。

 一つの可能性として、当初の質量が 10^12 kg だった原子ブラックホールが現在の宇宙で爆発するのを観測できるかもしれません。(補足:現在ブラックホール候補となっている天体がいくつも挙げられており、 nature 誌でも報告されています。)

 この場合、ブラックホールの質量の大部分は γ 線として放出されます。1976 年、ホーキングと当時カリフォルニア工科大学に所属していたペイジ( Don Page )は、γ 線放射の観測結果から、これら原子ブラックホールの個数には厳しい上限があることに気がつきました。

 これまでの物理学学会では、原始ブラックホールが現在の宇宙で暗黒物質(ダークマター)の主成分を構成している可能性は理論上考えられないものであるし、近くで爆発することは滅多にないので検出するのも難しいものだと考えられていました。

 ところが 1990 年代半ば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクライン( David Cline )らは、極めて短い γ 線バーストが実は原始ブラックホールの爆発なのではないかと提唱しました。

 γ 線バーストのうち、長く続くものは星の爆発や合体と関連していると考えられていますが、短時間のバーストには別の原因があるのかもしれません。この問題は今後の観測で解決するだろうが、天体観測によってブラックホール蒸発の最終段階を検出するという可能性は興味深いものの、実現の可能性を考えれば、やや現実味が薄いものとなります。これに対し、よりよい刺激的な可能性が、粒子加速器によるブラックホール生成だ――とカーとキディングズはいいます。

 高密度状態を作り出すことにかけては、加速器に勝る装置はありません。LHC やシカゴ近郊にある米国率フェルミ加速器研究所のテバトロンなどを使えば、陽子などの小さな粒子を光速近くに加速できます。

 加速粒子は膨大な運動エネルギーをもちますが、LHC の場合、陽子のエネルギーは約 7 兆電子ボルト( 7TeV )に達するだろうと予想されています。2005 年末頃に方程式の検証でその正しさが証明された有名なアインシュタインの関係式「 E = mc^2 」によれば、このエネルギーは 10^−23 kg の質量、つまり、陽子の静止質量の 7000 倍に相当します。

 こうした 2 つの粒子を衝突させると、ごく小さな空間にエネルギーが集中します。時には衝突した粒子が十分に近づきあって、ブラックホールを形成する例も出てくる可能性もあります。

 ただ、 1 つ問題点があります。10^−23 kg という値はプランク質量 10^−8 kg に遠く及ばず、従来の重力理論ではそんなに軽いブラックホールは存在しえないのです。

 最軽量のブラックホールが 10^−8 kg であるというこの下限値は、量子力学の不確定性原理から生じます。粒子は波としても振舞うから、ある程度のぼんやりとした広がりを持ち、その範囲は粒子のエネルギーが増えるにつれて狭まります。

 LHC の加速器の場合では、約 10^−19 m です。これが粒子 1 個のエネルギーを閉じ込められる最小の領域となります。この場合の密度は 10^34 kg/m^3 で、かなりの高密度ではありますが、ブラックホールが生じるほどの密度ではありません。

 粒子がブラックホールを生み出すほど高エネルギーでコンパクトになるには、いわゆるプランクエネルギーをもつ必要があります。その値は LHC のエネルギーの 10^15 倍にのぼり、まったく手が届きそうにありません。


余剰次元の世界を探る

 ところが、過去 10 年間の研究で、ブラックホール形成に必要とされるプランク密度が一般的に大きく見積もられすぎていたことが判明しました。

 量子重力理論の有力候補と研究者の間で考えられている「ひも理論」では、空間にはおなじみの 3 次元のほかに余剰次元が存在すると予測されています。重力は他の力とは違ってこれら余剰次元にも広がっていき、その結果、短距離では非常に強くなると考えられています。

 この考えてみていけば、3 次元では 2 つの物体の距離が 1/2 になると重力は 4 倍になりますが、 9 次元では 256 倍にもなります。余剰空間次元が十分な大きさで広がっているのなら、この効果はかなり大きな意味をもつため、過去数年間にわたり幅広く研究されてきました( N. アルカーニ=ハメッドほか「宇宙の見えざる次元」日経サイエンス 2000 年 12 月号)。

 このほか、余剰次元が広がっている場合(「曲がったコンパクト化」として知られる)も考えられ、この場合もやはり単距離での重力が強まる効果が生じます。もし、ひも理論が正しいとすると、このモデルの方が可能性は高そうだとカーとキディングズはいいます。

 このように重力が強まるなら、重力の法則と量子力学が破綻する実際のエネルギー値(つまりブラックホールが生まれる値)がこれまで考えられてきたよりもずっと小さい可能性が生じます。

 これについての裏付けとなる実験結果はまだありませんが、この考え方は(これまで解けなかった問題などを含む)多くの理論的問題を解く糸口になります。そして、もし、この考え方が正しいとすると、ブラックホール生成に必要な密度は LHC で実現が可能となります。

 高エネルギーでの粒子衝突でブラックホールを作る研究は、英オックスフォード大学に当時在籍していたペンローズ( Roger Penrose )による 1970 年代半ばの研究と、1990 年代初頭にケンブリッジ大学に所属していたドアース( Peter D' Eath )とペイン( Philip Norbert Payne )の研究に遡ります。

 その後、十分な大きさの余剰次元が存在する可能性が示されたことで、これらの研究が再び注目され、 1999 年にはカリフォルニア大学サンタクルーズ校およびラトガーズ大学のバンクス( Tom Banks )とテキサス大学のフィシュラー( Willy Fischler )が小規模な検討会を開きました。

 2001 年に開かれたワークショップでは 2 つのグループがそれぞれ、LHC などの粒子衝突型加速器で実際にどんな現象がみられるかを検討しました。一方はギディングズとスタンフォード大学のトーマス( Scott Thomas )のグループ、もう一方はスタンフォード大学のディモポロス( Savas Dimopoulos )とブラウン大学のランズバーグ( Greg Landsberg )のグループでした。

 カーとギディングズは多少の計算を行って、驚くべき結果を得たといいます。ざっと見積もったところ、最も楽観的なシナリオ(プランクスケールとしては最も小さな値をもつ場合に対応するモデル)では、毎秒 1 個の割合でブラックホールができるというのです。

 同様の生成率で粒子を生み出す加速器のことを物理学者は「ファクトリー(工場)」とよびますが、つまり、LHC は《ブラックホール工場》になりうるというわけです。

 もし、カーとキディングズの計算が正しければ、加速器で作られた微小ブラックホールが蒸発すると、検出器には極めて特徴的な痕跡が残る筈です。ふつうの粒子衝突(一般的な環境下での粒子衝突)ではそこそこの数の高エネルギー粒子が生まれますが、ブラックホールの崩壊では通常とは全く異なる現象が生じます。

 ホーキングの研究結果によれば、ブラックホールが崩壊すると極めて高エネルギーの粒子が大量に、あらゆる方向に向かって放たれるといいます。この崩壊生成物には自然界に存在するすべての粒子が含まれます。

 このことから、LHC で微小ブラックホールができた場合、検出器にどんな痕跡が生じるかを複数のグループがさらに詳しく研究しています。


理論研究もさらに《加速》

 ギディングズらによって加速器におけるブラックホール生成の可能性が指摘された後、余剰次元に広がる高次元ブラックホールの研究にも火がつきました。日本では東京工業大学の吉野裕高氏と南部保貞氏によって高次元ブラックホール生成の計算が先駆けて行なわれました。これは、本文中のドアーズとペインの研究は 4 次元時空に限られ、高次元時空では直接適用できないためによるものです。

 また、「毛」のなくなる過程の後に落ち着く古典的な最終状態に関する研究も重要となります。ケンブリッジ大学のギボンズ( Gary W. Gibbons )、学習院大学の井田大輔氏と東工大の白水氏は、回転のない場合には必ず非対称なブラックホールに落ち着くことを証明しました。

 5 次元時空ではドーナツ型をした回転する「ブラックリング」がバルセロナ大学のエンパラン( Roberto Emparan )とカリフォルニア大学サンタバーバラ校のリアル( Harvey Reall )によって発見されました。



(...to be continue...)

 区切りがよさそうなので、本編はこれで終わりとします。

 運が良ければ、続編があげることができるかも…A(^-^;

### 関連する参考資料 ###

■ブラックホールを製造する
ブラックホールの作り方

■ホーキングの話
ブラックホール蒸発理論
蒸発するブラックホール
ホーキングの「ブレーン」の話

■ブラックホールの補足
量子力学とブラックホール

■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話
未知の物理法則を探る
ブラックホール流体モデルの登場
微細構造がもたらす影響
相対論に修正は必要?

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月05日

ブラックホールの作り方

 粒子加速器を使って地上に小さなブラックホールを作り出そう――という理論物理学の研究から、びっくりするような構想が生まれてきた「隠れた次元」の存在など、時空の謎に迫る大きな実験が行なわれています。

 これについてのお話しをしましょうかね…。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2005 年 8 月号 p.26〜34
「ブラックホールを製造する」
原題名 Quantum Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN May 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:白水徹也
筆者 Bernard J. Carr(ロンドン大学クリーンメアリー校) / Steven B. Giddings (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)
 二人は 2002 年、ホーキングの 60 回目の誕生日を祝う集まりで顔を合わせたといいます。

 上記の論文はとても読みやすいものですが、2002 年の 5 月に発表されたものを 2005 年 5 月に加筆したもので、さらに、原本についてはホーキングが公演する前のもので(これが加算されていないもので)あるので、その分の差分が必要となります…。

 そこで、これまでの流れの話として当時の話を示しましょうかね…。

(* 内容は標準型のモデルの流れで示します)



ブラックホールを作ろう

 粒子加速器を使って地上に小さなブラックホールを作り出そう――という理論物理学の研究は、元々はブラックホールの構造の解明の手がかりとなることから考えられたものですが、量子学の知識から見れば見えてくる「隠れた次元」の存在など、時空の謎に迫る大きな実験が行なわれています。 

 原子を分裂させたり、元素を別の元素に変えたり、反物質を作ったり、自然界で観測されたことのない新粒子を作り出したり――と、粒子加速器の発明以来かれこれ 80 年、物理学者はそんな風変わりな仕事にこの装置をうまく利用してきました。

 しかし、うまくすると、間もなく別の使い道が開けそうです。そうなれば、過去の成果などまるで陳腐に思えてくるに違いない、とカーとギディングズはいいます。

 というのは、加速器を使って、宇宙で最も謎めいた天体であるブラックホールを作り出せるかもしれないからです。

 ブラックホールといえば、宇宙船から星に至るまであらゆるものを呑み込んでしまう巨大な怪物を思い浮かべるのが普通でしょう、しかし、ここでいう高エネルギー加速器で作り出せそうなのは、そんな天体物理学の巨獣とはまるで違って、素粒子ほどの微小なブラックホールをさします。

 早ければ 2007 年頃、ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関( CERN )で大型ハドロン衝突型加速器( LHC )が始動すると、ブラックホール作りの実験が可能になります。

 微小ブラックホールは星を引き裂くことも銀河に君臨することもなく、私たちの地球を脅かすこともありません。しかし、その特性は、ある意味で巨大なブラックホールよりも劇的です。

 量子効果によって、微小ブラックホールは生まれたそばから蒸発し、クリスマスツリーの電飾のように検出器に光をともします。これによって、時空がどのように織り成されているのか、私たちの目には見えない次元が存在するのかといった謎を解く手がかりが得られます。


    加速器が《ブラックホール工場に》

  • ブラックホールが大食らいの怪物であるとは限りません。理論的にはさまざまな大きさのものが考えられ、素粒子より小さなものもありえます。微小ブラックホールは粒子効果によって壊れ、特に小さなものは生まれてすぐに爆発・消滅します。


  • ビックバンの初期段階には小型のブラックホールができた可能性があり、その一部が現在の宇宙で爆発するのを観測できるかもしれません。


  • 最近、粒子の衝突によって微小ブラックホールが生じる可能性があると考えられるようになりました。生成には膨大なエネルギーが必要だとされてきましたが、もし空間に適当な余剰次元が存在するならエネルギーの閾値はずっと小さくなります。その場合、欧州合同原子核研究機構( CERN )の大型ハドロン衝突型加速器( LHC )でブラックホールが作れるのかも知れないし、宇宙線が上層大気に衝突する際にもブラックホールができている可能性があります。こうした微小ブラックホールは余剰次元の存在を探る手立てになります。


ブラックホールができるには

 ブラックホールの概念はアインシュタインの一般相対性理論から生まれました。一般相対性理論では、物質が十分に圧縮されると非常に強い重力を発揮して空間の一部を切り開き、どんな物質もその領域から逃れられなくなります。この領域の外縁がブラックホールの「事象の地平」で、物体はその中に落ち込むことはできても、決して外には出てこられません。

 最も単純な場合には(空間に未知の次元が存在しないか、存在してもブラックホールより小さい場合)、ブラックホールの大きさは質量に正比例します。太陽を半径 3 km 、現在の大きさのおよそ 100 万分の 4 にまで圧縮すると、ブラックホールになるでしょう。地球に同じ運命を辿らせるには、現在の大きさの約 10 億分の 1 、半径 9mm に押し潰す必要があります。

 このように、小さなブラックホールほど、それを作り出すのに必要な圧縮の度合いは大きくなります。物質がブラックホールになる密度は質量の 2 乗に反比例して小さくなるからです。

 太陽と同じ質量のブラックホールの場合、この密度は 10^19 kg/m^3 で、原子核の密度よりも大きいものとなります。現在の宇宙で、重力崩壊によって作り出せる密度はこのあたりが限界となります。

 太陽よりも軽い天体は重力崩壊を起こしません。何故なら、原子を構成する小さな粒子の間に量子的な反発力が働いて、安定な状態を保つからです。

 これまでに見つかった最も軽いと思われるブラックホールでも、太陽の 6 倍程度の質量があります。

 しかし、ブラックホールを作り出すのは星の重力崩壊だけではありません。1970 年代初頭、英ケンブリッジ大学のホーキング( Stephen W. Hawking )と B. J. カーは、ビックバン直後の初期宇宙にブラックホールが生じていた可能性があると考え、そのメカニズムを研究しました。これらのブラックホールは「原始ブラックホール」と呼ばれます。

 空間が膨張すると、物質の平均密度は下がります。だから、かつての宇宙は現在よりもずっと高密度で、ビックバン後の数マイクロ秒は原子核の密度を超えていました。既知の物理法則によると、物質の密度には上限があります。

 その上限とは、「プランク密度」と呼ばれる値で、「 10^97 km/m^3 」です。

 この値では重力が極めて強くなり、量子力学的な揺らぎによって時空の構造が壊れてしまいます。これほどの高密度なら、直径わずか 10^−35 m 、質量 10^−8 kg のブラックホールの形成が十分に可能だったろうと考えられています。

( 10^−35 m は「プランク長」、10^−8 kg は「プランク質量」と呼ばれます)

 従来の重力理論に従うなら、これが存在しうる最も軽いブラックホールです。素粒子よりも遥かに重いですが、大きさはずっと小さいものです。宇宙密度が低下すると、次第にもっと重い原始ブラックホールができるようになりました。

 これは、質量が 10^12 kg 未満のブラックホールは陽子よりも小さなサイズですが、これよりも重くなると、物体と呼んでもおかしくないほどの大きさになります。

 宇宙の密度が原子核の密度と同程度だった時期にできたブラックホールは太陽と同じくらいの質量で、大きさも巨視的だったと考えられます。

 初期宇宙の高密度は原始ブラックホールが生まれるための必要条件ではありましたが、高密度なら必ずブラックホールができたというわけではありません。ある領域が膨張をやめ、つぶれてブラックホールになるためには、平均密度を超える高密度に達する必要があります。

 即ち、ブラックホールが形成されるには、単に高密度であるだけでなく、密度の揺らぎも必要だったということです。

 すくなくとも、大きな空間スケールでは、こうした揺らぎが確かに存在していました。さもなければ、銀河や銀河団などの構造は決して生まれなかったからです。しかし、原始ブラックホールが生まれるためには、より小さな空間スケールで、もっと強い揺らぎが存在していた必要があります。これは必ずそうだったとまではいえないまでも、可能性としてありえたことです。

 たとえ揺らぎがなかったとしても、さまざまな宇宙論的相転移に伴ってブラックホールが自然に生まれた可能性があります。例えば「インフレーション」と呼ばれる初期の加速膨張が終わったときや、宇宙の密度が原子核と同程度の密度になったとき(陽子などの粒子はこの時期にクォークのスープが濃縮してうまれた)などが挙げられます。

 実際、最終的に原始ブラックホールとなった物質があまり多くなかったという観測事実に基づいて初期宇宙を説明する理論も出るに制限をつけることができます。


2 つのブラックホール:大と小

 天体物理学が扱うブラックホールは大質量星が自重によってつぶれた残骸だと考えられています。そこに物質が落ち込むと、重力ポテンシャルエネルギーを放出します。

 ブラックホールがいわば宇宙版の水力発電書のようなものとなります。たとえば、理論上で予測されている X 線連星の観測でみられであろうと考えられているような、天体から吹き出すガス状ジェットや強烈な X 線などは、ブラックホールがエネルギー源であると考えられています。

 微小ブラックホールの質量は最大でも大型の小惑星程度の大きさです。ビックバンの初期に物質が崩壊し、大量に形成された可能性があります。また、空間に未知の余剰次元が存在するなら、現在の宇宙でも高エネルギー粒子の衝突によって生まれている可能性があります。これら微小ブラックホールは物質を呑み込むのではなく、放射を放って速やかに崩壊すると考えられています。


ブラックホールは蒸発する

 小さなブラックホールが存在し得たことがわかると、ホーキングはどんな量子効果が存在するかを考えました。そして 1974 年、ブラックホールは粒子を呑み込むだけではなく、吐き出しているという有名な結論に至りました( S. W. ホーキング「ブラックホールと量子力学」日経サイエンス 1977 年 3 月号)。

 ブラックホールは燃え盛る石炭のように熱を放射しており、その温度は質量に反比例するとホーキングは予測しました。太陽と同じ質量の場合には、放射の温度は約 100 万分の 1 K ( K は絶対温度の単位ケルビン、OK は約 −237 ℃)。

 これは、現在の宇宙では完全に見落とされてしまう温度です。

 しかし、質量 10^12 kg ( 10 億トン、山 1 つ分くらいの重さ)のブラックホールなら、温度は 10^12 K となります。

 これほどの高音なら、光子などの質量のない粒子と、質量をもつ電子や陽電子などの粒子を両方とも放射できます。

 放射によってエネルギーを奪われるから、ブラックホールの質量は減っていきます。だから、ブラックホールはとても不安定な存在です。

 収縮につれて温度は着実に上がり、よりエネルギーの高い粒子を放出するようになって、ますます速く収縮していきます。ただし質量が 10^6 kg くらいに減ったところで、このゲームは終了です。ブラックホールはいきなり爆発し、100 万メガトンの核爆弾に相当するエネルギーを放出します。

 このようにブラックホールが《蒸発》して消え去るまでにかかる時間は、最初に持っていた質量の 3 乗に比例します。太陽と同じ質量のブラックホールの寿命は 10^64 年です。

 しかし、これは現在の宇宙の年齢(約 140 億年)を遥かに超えており、蒸発を観測するのは不可能です。一方、10^12 kg のブラックホールの寿命は 10^10 年で、宇宙年齢と同程度になります。

 この程度の質量を持っていた原始ブラックホールの中には、いままさに蒸発をお得手爆発しているものがあるかもしれません、より小さなものは、すでに蒸発してしまっているでしょう。

 ホーキングの研究によって、物理学の概念は目覚しく進歩しました。それまで共通点のなかった 3 つの分野、一般相対性理論、量子論、熱力学が結びついたからです。それとは同時に完全な量子重力理論を築く上での第一歩でもありました。

 たとえ、原始ブラックホールが実際には生まれていなかったとしても、それらを考察することで物理学は大いに進歩しました。このように、たとえ存在しないものでも研究に役立つことがあります。

 特筆すべきことは、この発見によって根本的なパラドックスが生じたことです。そのパラドックスは一般相対性理論と量子力学が両立し難いのはなぜかという問題の核心をついています。

 相対性理論によれば、ブラックホールに落ち込んだものに関する情報は永遠に失われます。しかし、ブラックホールが蒸発したら、中に含まれていた情報はどうなるのか?――この時ホーキングは、ブラックホールは完全に蒸発し、情報は崩壊されると提唱しました。これは粒子力学の流儀に反する考え方です。

 何故なら、情報の崩壊はエネルギー保存則に反するのでホーキングのシナリオは信じがたいからです(その後、観測によってホーキングはその考え方を改めました)。

 別の可能性として、ブラックホールが蒸発した後に何らかの残骸が残るというシナリオがありますが、これもやはり受け入れにくいものです。何故なら、ブラックホールに呑みこまれた情報のすべてをこうした残骸によって記録するには、その残骸が無限の状態から成っている必要があります。

 物理法則によれば、ある粒子の生成率はその粒子の状態の数に比例します。とすれば、ブラックホールの残骸は無限大の生成率で生まれたことになり、自然界は凄まじく不安定になるでしょう。

 第 3 の可能性は「局在性」が破れているというものです(局在とは、空間的に離れた地点で起こった事象どうしは、その間を光が移動するのにかかる時間が通過する前に影響を及ぼし合うことはないという概念です)、

 理論化は現在も、この難題にとりこんでいます( S. ロイド/ Y. J. エン「計算する時空」日経サイエンス 2005 年 2 月号)。

 ホーキングの 2 次元ブラックホール理論では「裸の特異点」の可能性が示唆されましたが、そもそもブラックホールの中が見えないという物理的な限界から、今のところはわかっていません。

 そこで、観測技術を高めようとする動きの反面では人工的にブラックホールを作ってしまおうという動きがあります。


    《微小ブラックホールを作る 3 つの方法》

  • 原始の密度揺らぎ

  •  誕生間もない初期宇宙では、空間は高温・高密度のプラズマで満ちていました。その密度は場所によって異なっており、密度が対照的に高い部分ではプラズマが重力崩壊してブラックホールが生まれた可能性があります。

  • 宇宙線の衝突

  •  宇宙線(天体から放射された高エネルギー粒子)が地球の大気に激しくぶつかると、ブラックホールができる可能性があります。こうしたブラックホールが爆発すると放射線や二次粒子のシャワーを生み出すので、それを地上で検出できるでしょう。

  • 粒子加速器

  •  LHC などの加速器を使って 2 つの粒子を十分に高いエネルギーで衝突させると粒子がつぶれてブラックホールができる可能性があります。ブラックホールはすぐに崩壊しその様子が検出器に記録されます。



(...to be continue...)

 長文になったったので、本編はこれで終わりとします。

 運が良ければ、続編があげることができるかも…A(^-^;


### これまでの参考資料 ###
■ホーキングの話
ブラックホール蒸発理論
蒸発するブラックホール
ホーキングの「ブレーン」の話

■ブラックホールの補足
量子力学とブラックホール

■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話
未知の物理法則を探る
ブラックホール流体モデルの登場
微細構造がもたらす影響
相対論に修正は必要?

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 16:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月04日

新種の複合粒子を発見

 それは、2005 年の 5 月の話でありますが…。

 日本の加速器が貴重なデータを掴みました。

 高エネルギー加速器研究機構の素粒子実験施設「 B ファクトリー」で不思議な粒子が見つかりました。物質を構成する素粒子クォーク 2 個と、力を伝える素粒子グルーオン 1 子が複合した「ハイブリット粒子」とみられる、全く新しいタイプの複合粒子です。

 複合粒子として一般的なのは、クォーク 3 個でできた容姿と中性子、2 個からなる中間子です。このクォークどうしはグルーオンが担う「強い力」で結びついています。グルーオンはゴムひもに例えられ、両端についているクォークを引き離そうとすればするほど、より強い引力が働きます。こうした振る舞いは「量子色力学」という理論で説明されます。

 力を伝える素粒子としては、電力を担う光子がよく知られますが、光子とグルーオンには大きな違いがあります。光子の間には力は伝わりませんが、グルーオンの間には力が働きます。したがって、2 個のクォークと 1 個のグルーオンが強い力で結びついて複合粒子になる可能性があります。また、グルーオンだけがなる「グルーボール」の存在も予想されます。

 現在の宇宙では、クォークどうしがグルーオンで結びついて単独では存在できませんが、宇宙誕生初期の超高温高密度状態ではクォークとグルーオンがバラバラになって自由に動き回っていたと考えられています。その中で 4 個や 5 個のクォークが集まった複合粒子や、クォークとグルーオンのハイブリット粒子、グルーボールなどが生成・消滅を繰り返していた可能性があるといいます。


▼姿表した稀な粒子

 B ファクトリーは光速地殻に加速した電子と陽電子(電子の反粒子)を正面衝突させる実験施設です。極めて短時間、狭い領域ながら初期宇宙に近い超高エネルギー状態を実現して B 中間子と反 中間子のペアを生み出し、その崩壊家庭を測定して物質と反物質の性質の違いを研究するのが主目的です。

 実験の成否は、いかに大量の粒子ペアを作りだし、統計学的に精度の高い結論を導き出せるかにかかっています。そのため施設には頻度衝突を実現するように、さまざまな工夫が凝らされました。その結果、副産物として出現確率が低くて従来の実験装置では観測にかからなかった複合粒子が続々と見つかり始めました。

 2004 年までに報告されたのは、ηc ( 2S )、X ( 3872 )、D0* ( 2308 )、 D1' ( 2427 )の 4 種類です。米国で先行して発見された DsJ ( 2317 )と DsJ ( 2460 )についても、その確定に B ファクトリーが貢献しました。

 そして、今回、 X ( 3940 )と Y ( 3940 )、c ( 2800 )の 3 種類が新たに見つかりました。

新素粒子の顔ぶれ

 これらのうち、ηc ( 2S )、D0* ( 2308 )、 D1' ( 2427 )、 X ( 3940 )、 DsJ ( 2317 )、DsJ ( 2460 )はチャームというクォークを含む中間子で、、c ( 2800 )はチャームと他の 2 個のクォークからなる重粒子です。いずれも理論から存在が予想され、発見は想定範囲内でした。しかし、残る 2 種類は研究者を驚かせるインパクトを持っていました。

 X ( 3872 )はクォーク 4 個の複合粒子で、2 つの中間子が分子のように結びついているらしいというのです。Y ( 3940 )はクォークとグルーオンのハイブリット粒子と考えられます。

 1999 年 6 月から 2004 年 7 月までに得られた 2 億 7400 万個の粒子崩壊データを解析した結果、 58 個の Y ( 3940 )が観測されました。


▼データ蓄積

 両粒子とも理論予想はありましたが、実験による確認は初めてでした。これら新奇な粒子の発見は、誕生直後の宇宙の出来事が見え始めたことを意味し、量子色力学の研究に弾みがつくと考えられます。

 Y ( 3940 )に関連していえば、グルーオンどうしが結びつくことを実証したのが B ファクトリーの前身であるトリスタンでした。

 B ファクトリーの性能は開発陣の努力で今も向上を続けているといいます。2004 年に比べると衝突回数は 2 倍に増え、 2005 年での能力は、トリスタンによる 9 年間の全衝突回数をたった半日たらずで実現してしまう水準となっています。

 ライバルであるスタンフォード大学の施設は 2004 年 10 月から停止しており、データ蓄積では高エネルギー機構が大きくリードすることになりました。今後も新粒子の発見が期待できそうです。


 本内容は日経サイエンス 2005 年 5 月号の topics で取り上げられました。

 今回は宇宙理論を理解するにおいての参考資料として挙げてみました。

 グルーオンやクォークの検出といった実験結果はこんな感じであります…。
posted by 梵 at 12:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月03日

ホーキングの「ブレーン」の話

 前回の「ブラックホール蒸発理論」の続きとなりますが、もとは、政景宅の「ブレーン理論運」の延長線上にとなる話です。

 その延長線上の話でも挙げられたように、今度のホーキングの新説(厳密には「ホーキングが語る最前線の宇宙論」)は「膜理論だ!」と 2002年 2 月号の Newton 誌で取り上げられましたが、そのときのホーキングの新説とは「我々の宇宙はブレーン(膜)に閉じ込められている」とする説です。

 東京大学のビックバン宇宙国際研究センター( RRSCEU )が主催した宇宙論に関する国際会議が、2001 年 11 月に開かれ、その最終日にスティーブン・ホーキング博士による「 BRANE NEW WORD 」と題する特別公演会が開催されました。その公演は、当時宇宙論の世界で最もホットな話題となっている「ブレーン(膜)」に関する話でした。

 政景宅の「ブレーン理論運」では、概要が取り上げられていますが、ここでは、当時の公演でのホーキングの言葉をまじえながら、ブレーンについて示していきましょうかね…。


 2001 年 11 月 13 日から 16 日にかけて、東京大学で宇宙理論に関する国際会議が開かれました。ビックバン国際宇宙研究センター( RESCEU )が主催した国際会議で、1995 年の第 1 回以来、今度が 5 回目の国際会議でした。日本人が 130 人、海外から 40 人ほどが参加したといいます。ホーキングが登場したのは、その最終日です。

 「宇宙、実存実態、存在するものすべてについての私たちの見識に変更をせまる最近の面白い進展についてお話したいと思います」――ケンブリッジ大学のスティーブン・ホーキング博士の講演は、そのような言葉で始まりました。



▼「ブレーン」とは何か

 ブレーンとは、ひも理論で現れる、広がった構造をもつものです。ブレーンはひもであり、ブレーンは膜でありmブレーンは 3 次元の構造をもちます。

 このアイデアによると、私たちは、大きな空間の中のブレーン(膜)にすんでいることになります。

 私たちは 3 次元空間の中にすんでいると考えています。しかし、空間の 3 方向に時間の 1 方向を加えることができます。つまり、私たちは 4 次元時空の中にすんでいると記述できます(相対性理論)。

 これを量子力学的知見を加えれば、重力が説明できないため、3 次元+時間の 1 次元と考えます。

 ところが、ブレーン・ワールドの考え方では、5 次元の時空にブレーンが浮かんでおり、私たちの宇宙がある 4 次元時空は、そのブレーンの中に閉じ込められているといいます。

 その時、光はブレーンの面に沿った方向しか伝わることができませんが、重力だけは 5 次元空間を伝わることができると考えられています。

 この「ブレーン」の概念は、もともと素粒子の研究から出てきたものでした。宇宙論に取り入れられて活発に研究されるようになったのは、1999 年の夏頃からだといいます。

 それは、ランドール博士とサントラム博士の二人が行った提案が切っ掛けとなりました、二人は、私たちがもしブレーンの中にすんでいるとしたら、宇宙論的にどのような面白いことが起きるかについて、いくつかの提案をしたのです。

 当初はさまざまな議論がありましたが、研究が進むにつれて良いモデルだということがわかってきたと研究者の白水氏はいいます。そして、宇宙の誕生や進化について、これまでとは違ったシナリオが書けるかもしれない状況になってきた、というのです。


▼現在考えられている宇宙誕生の標準モデル

 宇宙が膨張しているのがハップルによって発見されたのは、1929 年のことになります。では、その膨張を逆にたどっていくと、過去の意中は超高温・超高密度の火の玉から誕生したのではないかという「ビックバン」モデルが 1946 年にガモフによって提唱されました。

 その後、1980 年代に、誕生直後の宇宙が急激に膨張したとする「インフレーション」を佐藤勝彦教授が提唱し、また、ホーキング博士は、量子論的なゆらぎによって宇宙は「無」から誕生したという仮説を提唱しました。

 これらの研究から、宇宙の進化について、一般的に次のようなシナリオが考えられてきました。

 150 億年前、高い真空のエネルギーによって「インフレーション」と呼ばれる急激な膨張を起こします。水が氷になるような現象を「相転移」といいますが、インフレーションの最中にも、高いエネルギーの真空は低いエネルギーの真空に相転移します。水が凍りになるときは潜熱を放出しますが、真空のエネルギーも相転移の終了とともに熱エネルギーとして解放され、熱い火の玉である「ビックバン」の状態になります。

 ビックバンの高エネルギー状態の中で、素粒子である「クォーク」「レプトン」が生成されます。宇宙の温度がしだいに下がって行くにしたがって陽子や中性子が、そして陽子や中性子から重水素やヘリウムの原子核などができていきます。

 宇宙誕生から 30 万年後、宇宙の温度が 4000 K まで下がったところで、原子核が電子をつかまえて元素ができます。それらの元素から、星や銀河がつくられていきました。

《宇宙進化のシナリオ》

 現在( 2001 年時点)考えられている標準的な宇宙の進化のシナリオは、宇宙は「無」から誕生し、直後に「インフレーション」を起こします。その後、宇宙は「ビックバン」という超高温・超高密度の火の玉になったと考えられています。

 その後、宇宙は膨張しながら温度が下がっていきますが、宇宙誕生から 30 万年後、原子核が電子をつかまえて「宇宙の晴れ上がり」とよばれる状態になったと考えられています。宇宙の晴れ上がりのとき、物質の密度にむらがあり、密度の高い部分から星や銀河などが誕生したと想定されています。

 このようなシナリオのうち、とくに最初の誕生の部分に関しては、まだ仮説にすぎません。また、これから私たちの宇宙の未来がどのようになっていくのかについても、はっきりした答えは出ていません。


▼私たちは万物の理論の手がかりをつかめたのか

 宇宙の始まりから終わりまでを統一的に説明できる理論を作ることが、宇宙論の研究者の最終的な目標といえます。そのためには、大きさサイズをあつかう一般相対性理論と、ミクロサイズをあつかう量子論とを統一する必要があります。しかし、現在のところ、まだそれらは統一されていません。

 宇宙の始まりから終わりまでを説明できる理論は「 TOE ( Theory of everything :万物の理論)と呼ばれています。過去 30 年間ホーキング博士を筆頭とした研修者たちは『万物の理論』を探しつづけてきました。そして今( 2001 年 11 月時点の話)、『 M 理論』がその有力候補出ると考えられているとホーキング博士は語りました。

 この『 M 理論』とは、超ひも理論をひとつの枠組みへと統一する理論です。 11 の時空を前提とする理論ですが、その多くの特質はまだ完全には理解されていません。

 このことについて、ホーキング博士は著作した『ホーキング未来は語る』では、次のように説明しています。

 この理論は、少なくとも私たちの知る限りにおいて、ひとつの公式をもっているわけではありません。その代わり、見かけ上は互いに異なる理論であるけれど、それぞれ異なる場合の極限で、同じ基本理論の近似となる理論のネットワークを発見しました。これはニュートンの万有引力の法則が、重力場の弱い極限ではあ飲酒大意の一般相対性理論の近似であるのと同じことです。

 M 理論はジグソーパズルに似ています。ジグソーパズルは端っこにあるピースを固定してからはめていくのがもっとも簡単です。しかし、そこは M 理論の限界であり、何らかの量が小さいのです。今ではこうした端に関して、かなりの知識を得てきました。

 周辺のパズルをはめるのは容易ですが、中央で何が起こっているかほとんど推測できません。それはなんらかの物理量が小さくて近似計算することもできないからです。

 未だに、 M 理論のジグソーパズルの中心には大きく口を空けた穴があり、そこで何が起きているかわかりません。

 この穴をふさぐまでは、万有理論を見つけたとは主張できないのです。――とホーキング博士は語っています。


▼ブレーンどうしの衝突が宇宙をつくる?

 ブレーンとの関連については、5 次元時空には複数のブレーンがあるかもしれないと考えられています。それらのブレーンどうしの衝突によって、ビックバンやインフレーションなどのイベントを開始したり終了したりしたりできる可能性があると考えられています。勿論、これも仮説上の話で、まだはっきりした答えは出ていません。

 光はブレーンの方向にしか進むことができませんが、重力はブレーンが浮かぶ 5 次元の方向に飛んでいくことができると考えられています。私たちの宇宙を含むブレーンの他に、別のブレーンが存在すれば、そこには別の宇宙が存在している可能性もあるとも考えられています。この別のブレーンは光では観測できませんが、重力波を使えば、原理的に観測可能です。

 もし、この説が正しければ、5 次元には、私たちの宇宙を含むブレーンが 1 つだけ存在するとは限りません。 5 次元時空に別のブレーン存在する可能性もあります。

 私たちが高次元時空中にあるブレーンにすんでいるのであれば、ブレーン上の物体の運動によって生み出された重力波は、高次元方向に逃げていくでしょう。もし、 2 枚目のブレーンが存在すれば、その重力波は跳ね返されて 2 枚目のブレーンの間を飛び交うでしょう、とホーキング博士は語りました。

 ブレーンどうしが衝突してたがいのブレーンに影響を及ぼすこともありうると考える研究者もいます。ブレーン・ワールドの考え方では、例えばインフレーションが必要なくなる可能性もありうると考える研究者もいます。

 これは、次のような考えから成り立っています。宇宙が誕生する前のブレーンは何もない真空で、 3 次元の空間は無限に広がっており、時間が短調に流れています。そのようなブレーンどうしが衝突し、その衝突のエネルギーによって宇宙が熱くなり、ビックバンが生じたというシナリオが考えられるからだといいます。そうなると、インフレーションが必要なくなるわけです。そうなるとインフレーションの概念もかわってきますし、宇宙定数もこれまで考えられてきた概念とは違うものになります。

 2001 年の春には、この考え方の流れに属する「エクピロティック宇宙」という考えが提案されました。これは、宇宙の過去にはじまり、ずっと静止していた 2 つのブレーンが、あるとき近づいていって衝突し、それによってビックバンが起きたというものです。

 ホーキング博士は「このエクピロティック宇宙は満足できるモデルではない」と否定的なものでした(実は梵も同じ考えで、現在のモデルでもどうかなーと論文読んで止まっている梵です)。何故なら、ホーキング博士の場合、自身が著書にて実証主義だといっているとおり、基本的には保守派(確実なところを求める)にあるからなのですが…。このことについて、おそらく最初に提唱されたモデルではうまく行かないからだろうと他の研究者はいいます。ただ、ブレーンどうしの衝突によって何が起きるという考え方は、最近かなり注目されてきているようです。

 その仮説によれば、ビックバンだけでなく、ブレーンどうしの衝突によってインフレーションを起こしたり、逆に衝突によってインフレーションを終わらせたりすることも、原理的にはできるといいます。これまではインフレーションを起こす物質があり、その物質がその後の宇宙の進化をすべて決めていると研究者の間では考えられてきました。

 しかし、ブレーン・ワールドの考え方では、ブレーンどうしの衝突によってインフレーションやビックバンなどのイベントをはじめたり終了したりといったことが可能になってくるといいます。

 宇宙定数とは、もともとはアインシュタインが考えたものです。アインシュタインは、当初、膨張も収縮もしない宇宙モデルを作ろうとしました。しかし、宇宙には銀河などが存在し、それらの重力によって宇宙は収縮してしまいます。そこで、収縮しない宇宙モデルを作るために、空間どうしを互いに反発する宇宙定数を、自身の方程式に導入しました。その後、宇宙の膨張が確かめられ、アインシュタインは宇宙定数を取り下げました(即ち宇宙項のことですが、現在、大学での学科の過程では理論上影響しないものとして、講義に取り入れられています)。しかし、最近( 2001 年時点の話)になって、宇宙の年齢の問題と関連して、再び宇宙定数の存在がクローズアップされました。

 ブレーンワールドでは、 5 次元の方向にある真空のエネルギーと、ブレーンの聴力のもとになるエネルギーとのバランスで、ブレーンの中の宇宙定数が決まってくるといいます。そのため、短銃に宇宙定数を導入するかどうかということではなくなってくるのだといいます(大学での学科の講義では、先々の宇宙の未来の予測に対して観測にしたがって計算する場合の話として、その可能性から宇宙項が説明されます)。


▼他のブレーンを原則的には観測できる

 もし、私たちの宇宙を含むブレーン以外に他のブレーンが存在するとしたら、そこには私たち宇宙とは別の宇宙が存在しているかもしれません。しかし、存在していたとしても、それを確認することはできるのでしょうか。

 私たち宇宙を含むブレーンと、もう 1 つの他のブレーンがあったとします。他のブレーンにも銀河があり、星がある可能性があります。光はブレーンの間を直接観測することはできませんが、重力波を使えば、原理的にはそれらを観測することができます。

 これに関して興味深い話題があります。一方のブレーンの面上でおきた現象についての情報は、重力波を通してもう一方のブレーンに飛んできます。即ち、宇宙で私たちが見ているものはホログラムのように、実は重力波によって投影された他のブレーンからの情報なのかもしれない、というものです。このような研究はホーキング博士も研究を行っているところだといいます。これについて、ホーキング博士は次のように説明します。

 私たちは 4 次元の時空にすんでいることを当然のことと緒もっています。しかし、私たちはろうそくが洞窟の壁に投影した単なる影に過ぎないのかも知れません、と表現しました。


▼ 4 次元以上の高次元が見つかるかもしれない

 これまで考えられてきた物理学の理論でも、高次元を考えるものがありました。しかし、従来の理論から考えられる高次元は、どのようにしても絶対に検証できないと考えられてました。しかし、もし、ブレーン・ワールドで考えられている 5 次元の方向があるとしたら、それは実験によって検証できる可能性があります。

 素粒子の実験では、粒子と粒子を衝突させて反応を見る実験が行なわれます。粒子どうしの衝突でも、5 次元の方向に重力波が跳んでいきます。それによって衝突したときの相互作用の仕方がわかってくるので、それを観測できれば、高次元の存在を確認することができるわけです。

 そのような実験は、TeV (テラ電子ボルト)スケールの実験で実現可能だといいます。尚、この電子ボルト( eV )は、素粒子や原子核などのエネルギーを表す単位で、テラは 1 兆(単位)です。

 2005 年からの実験開始が予定されていたジュネーブに建設された「 LHC (ラージ・ハドロン・コライダー)」という巨大な粒子加速器は、陽子と陽子を 14 TeV まで加速して衝突させることが可能です。即ち、高次元の研究など、これまでは検証することがほとんど不可能であった研究が手に届く範囲にきていることになります。

 また、ブレーンの考え方によると、高次元では重力はより強いといいます。ホーキング博士は「もし、高次元において重力がより強ければ、高エネルギー粒子の衝突によって小さなブラックホールをつくることが容易になる」と述べました。

 1974 年にホーキング博士は、サイズが陽子くらいの非常に小さなブラックホールは蒸発するという理論を発表しました、ブラックホールが蒸発するときには、対に生じた粒子が消滅する前に、ブラックホールに片方の粒子が吸い込まれるために、もう片方の粒子が放出されます。その粒子の放出は「ホーキング放射」といいます。

 ホーキング博士は次のように述べて公演を締めくくりました。「小さなブラックホールは、LHC でつくることができるかもしれません。そのブラックホールはホーキング放射によって消え、私はノーベル賞を受けることができるでしょう。そして、 LHC に向けて私たちはブレーン新世界を発見することができるかもしれません」。

 …といった、2001 年当時のホーキング博士の公演でありました…。

 即ち、それから 5 年経過している現在なので、差し引き・足すことの…が必要となります。古いすねを挙げていますので、ご注意くださいね…。
posted by 梵 at 01:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月02日

ブラックホール蒸発理論

 前回の「蒸発するブラックホール」の続きとなりますが、今回はホーキングが一般相対性理論に量子理論の考え方を取り入れた『ブラックホール蒸発理論』についての話をします。

 前回はブラックホール研究について全般的に見てきましたが、今回はホーキングが考えてきた『ブラックホール蒸発理論』、即ち、1974 年に発表した「 4 次元ブラックホール蒸発理論」と 1992 年に発表した「 2 次元ブラックホール理論」について、ざっと追ってみようと思います。

 但し、この情報が 1992 年 8 月に行なわれた国際シンポジウム「量子物理学と宇宙」でホーキングが来日したことから、科学雑誌で取り上げられた 1993 年 時点の背景で話を進めていきますので、現在まで 13 年の余白があることをご容赦下さい…。

 学会な伊達で依頼を受けたので(所謂、あとあげなのですが、適当なスペースに)、詳細を示すことになりました。(参考資料:「国際会議運」)


 さて…。今のところは予告挙げです…。

 前回のすねでも、やはり、あとあげですが、纏めるのに 2 日間かかりました。

 どうなりますかね…。



▼未解決だったブラックホール蒸発理論

 ホーキングは、2002 年 7 月に 2 次元ブラックホールの論文を発表し、ブラックホールは蒸発して「裸の特異点」が残る可能性が高いことを指摘しました。

 ホーキングは先立つ 1974 年に、ミンコフスキー空間でいう 4 次元、即ち、われわれの宇宙におけるブラックホールの蒸発理論を発表しています。

 なぜ、今回 2 次元であるのか、どのようにブラックホールが蒸発するのか、追ってみていきましょう。


 4 次元上の空間でみれば、ブラックホールは周りにある物質やガスを強い重力で吸いこんでいきます。そこでブラックホールの大きさは、どんどん増大していくと考えられていました。

 ところが、ホーキングは、量子論を考慮すると、ブラックホールの表面から粒子が放出されて《蒸発してしまう》との衝撃的な理論を発表しました。この理論によってホーキングは一躍、世界の物理学者の間で有名になりました。

 しかし、このブラックホールの蒸発理論には、未解決の問題が残されていました。その未解決な問題とは次のようなものが挙げられます。――ブラックホールが蒸発していくと、最後はどのようになるのでしょうか? なにも完全に残らないのでしょうか? ブラックホールの中心には、「特異点」があると考えられています。この特異点はどうなってしまうのでしょうか?――これが未解決の問題です。

 次に発表された 2 次元のブラックホールの蒸発理論は、この問題に対するホーキングの新しいアプローチでした。では、まず 1974 年に発表されたブラックホールの蒸発理論から見ていきましょう。

《ブラックホールはこうやって蒸発する》

量子理論によれば自然界では粒子と反粒子が瞬間的に生まれる「対生成」やそれらが消滅する「対消滅」が起きます。真空状態ではこの粒子と反粒子の対生成・対消滅が仮想的に絶え間なく繰り返されています。

 ブラックホールの値平面のすぐ近くの真空で粒子と反粒子の対生成が起き、対消滅でもとの真空状態に戻る前に片方の粒子がブラックホールに吸いこまれることがあります。残りの粒子は対消滅する相手を失ったので、境界地平面から飛び去っていきます。

 こうしてブラックホールからはニュートリノや光子などの粒子が放出されていきます。

 一方ブラックホールに吸い込まれた粒子は、遠方から見ると負のエネルギーをもったように見えます。こうしてブラックホールは負のエネルギーを吸収してエネルギーを失っていき、やがて蒸発してしまいます。

 蒸発してしまうブラックホールは量子効果がはたらく小さなスケールのブラックホールに限ります。宇宙誕生初期に小さなブラックホールが生まれる可能性が指摘されています。

 この時のホーキングによれば、小さなブラックホールのうち質量が 10 億トン以上のものは、現在まで生き延びている可能性があるといいます。質量 10 億トンの小さなブラックホールの半径を計算すると、それはおよそ 0.00000000000015 cm になります。


 その当時から次の 2 次元のブラックホール蒸発理論に至るまでどのように流れてきたのか、前に纏めていますので、詳細は「蒸発するブラックホール」を参考にするとよいでしょう。(その他資料:「:「国際会議運」「宇宙の構造」)



▼ブラックホールは蒸発し特異点が残る?

 ブラックホールは、巨大な星がその生涯の最後に超新星爆発を起こしてできる天体と考えられています。超新星爆発を起こした星の中心部は急激に収縮していき、中性子だけからなる超高密度の《しん》がつくられます。星の質量がそれほど大きくなれば、この中性子の《しん》が残って中性子星となります。しかし、星の質量があまりに大きいと、この中性子の《しん》さえ圧縮されて、すべての物質の中心の一点に向かって押し潰されていくと考えられています。

 この点の周りでは重力が異常に強くなり、ある領域から内側に入ると、莫大な重力の影響で光さえ出られなくなる境界面のことを「事象の地平面」といいます。そして、事象の値平面の内側がブラックホールになります。吸い込まれた物質が押し潰されている中心の点は「特異点」とよばれています。

 ホーキングがブラックホールに興味をもったのは、その中心に特異点が存在しているからだったといいます。ホーキングが彼の研究生活をスタートさせた最初の仕事は、彼がまだケンブリッジ大学の大学院生だった頃に数学者のロジャー・ペントローズと共同で行った「特異点定理」の証明でした。

 この時期はホーキングが不治の病である筋萎縮性側索硬化症にかかったころでもありました。ホーキングは以後、闘病と闘う一方で、この特異点との格闘を現在まで続けています。

 ホーキングが特異点との格闘を続けている理由は、特異点が現代物理学の基礎となっている相対性理論では解明できないものだからです。

 何故なら、ブラックホールの特異点は、そこに吸い込まれていった星や惑星、それらをつくっていた全物質が針の先より小さな、文字どおり面積ゼロの面に押し潰されているというのです。また、特異点のまわりでは時間や空間が極端にゆがめられており、特異点では時空という概念が消失してしまうと考えられています。

 想像を絶するような特異点を、相対性理論はあつかうことはできません。ホーキングはブラックホールの蒸発という画期的な理論を発表しました。しかし、この理論には、ブラックホールが蒸発していった最後に、特異点が裸になって宇宙に残されてしまう可能性が含まれていたのです。


▼超ひも理論と 2 次元の重力理論

 特異点の解明には、相対性理論とともに現代物理学を支えている量子論の協力だと考えられています。何故なら原子やクォークより小さな特異点では、不確定性や《ゆらぎ》といった量子効果を時空や重力についても考慮しなければならないからです。

 相対性理論と量子論を融合させる「量子重力理論」は、多くの困難のためまだ完成していません。ブラックホールの蒸発の最終段階をホーキングが解明できなかったのも、量子重力理論が完成していなかったからです。

 しかし、1990 年頃より、素粒子の超ひも理論の研究から朗報がもたらされました。超ひも理論は、一言で言ってしまえば、万物を作っている源が超ミクロの《ひも》だと考える理論です。といっても、実際はこんなに簡単に説明できるほど超ひも理論は単純ではなく、むしろ複雑で、同じ超ひも理論といわれても、それを説明するにいくつものモデルが存在します。元々は、「ひも理論」で重力を説明するために編み出されたものでした。

 当時難しいとされていた「ひも理論」自体は1974 年に結果が示されました。1974 年にひも理論は重力を説明できるがそれはひもの張力が 10 億の 100 万倍の 100 万倍の 100 万倍の 100 万倍の 100 万トン( 1 のあとに 0 が 39 個続く)である場合のみ示す論文をシャークとシュワルツが発表し、ひも理論の予測は普通の長さのスケールでは一般相対性理論と同じですが、10 憶の 100 万倍の 100 万倍の 100 万倍の 100 万倍の 1 センチメートル( 1 センチメートルの後に 0 が 33 個続く数で割ったもの)以下といった小さなスケールにおいては異なります。(それは、ギャース的な小ささです)

 一般的に、ホーキングの説を語るときは超ひも理論を語りますが、ホーキング自身は超ひも理論を懐疑的にみているため、「超ひも理論」という言語は使わず「ひも理論」として説明し、ひも理論の流れから現在に至るまでの数学的に可能な、確実なところの説明をしています。

 が、しかし、今回は、ブラックホール蒸発理論がテーマであるので、ここでは、超ひも理論の課程で、我々の 4 次元宇宙( 3 次元+時間の 1 次元)とは別の空間 1 次元、時間 1 次元の 2 次元世界なら量子重力理論が計算することが示されたことから、 2 次元ブラックホールの研究が行なわれるようになった、という話に止めます。

 この、我々の 4 次元宇宙( 3 次元+時間の 1 次元)とは別の空間 1 次元、時間 1 次元の 2 次元世界なら量子重力理論が計算することが示されたことから、早速このアイデアを、ブラックホールの蒸発と特異点の解明に応用されました。

 アメリカ、プリンストン大学の C キャランらによれば、ブラックホールのもとになる《物体》が 2 次元世界で収縮していくと、量子効果ですべての粒子が外に放出されてしまい、ブラックホールは形成されずに特異点も残らないとの結論が出たといいます。

 量子理論を考慮すると特異点が消えてしまう、というキャランらの結論はブラックホール研究者たちの注目を集めました。

 しかし、残念なことに、彼らの計算に誤りがあることがその後指摘されました。

 が、しかし、ホーキングは彼らの試みに興味を持ち、同じケンブリッジ大学のジョン・スチュワートと 2 次元ブラックホールの蒸発を計算してみました。

 ホーキングによれば、 2 次元世界で蒸発していったブラックホールの最後には 2 つの可能性があるといいます。

 一つは特異点が裸で残ってしまうというものです。この結果は、ホーキングをはじめブラックホールの研究者たちが避けて通りたい結論です。

 もう一つは、ブラックホールが蒸発し始めると、特異点が無限遠の空間に光速で移動してしまい、あとには何も残らない完全な真空が残るというものです。しかし、この第二の可能性は、その後の研究により否定されました。

 実際のところ、 2 次元時空に簡略化しても、ブラックホールの最後は未だにわかっていません。その後、ホーキングによる新しいブラックホールのモデルがいくつも考えられていますが、現在の状態では答えが導けないため、『ホーキングのすべてを語る』においても、わかっているところまでしか述べられていません。

 が、しかし…。「光速で移動するサンダーボルト特異点」という発想は、 TNG ファンや SF ファンにとっては楽しいものであるので、挙げて見ることにしましょう。


▼光速で移動するサンダーボルト特異点

 その後の研究で否定されはしましたが…。

 光速で移動するサンダーボルト特異点とは、ブラックホールが蒸発し始めると、特異点が無限遠の空間に光速で移動してしまい、あとには何も残らない完全な真空が残るというものです。

 即ち、2 次元の世界とは空間が 1 次元しかない、1 本の直線のような世界です。仮に、 2 次元世界がどこかにあったとすると、その世界の《物体》は移動する特異点と遭遇して衝撃波のようなショックを受けることになります。

 ホーキングはこの状態を落雷(サンダーボルト)にたとえ、光速で移動する特異点を「サンダーボルト特異点」とよびました。


 2 次元世界でのブラックホールの蒸発は、この二つの可能性のうちどちらかであるとホーキングは考えました。しかし、どちらの場合であっても、また現実の宇宙とは別の 2 次元世界という条件付ではありますが、相対性理論に量子論を加えても、ホーキングは特異点から逃れることができなかったということになります。

 これが当時発表されたホーキングの 2 次元ブラックホール蒸発理論のあらましです。

 その後のホーキングのブラックホール理論については、他の宇宙理論研究者の論文中にホーキングモデルが挙げられてきているので、その時新しいモデルが発表されたことがわかるのですが、その後、これまでに幾つモノモデルが考えられたようです。

 その後の著書でブラックホールの研究が進んでいないところを見ると、物理的な観測が必要なのかもしれません。

 

(...to be continue...)

 次回は、「ブレーン理論」の話をします…。
posted by 梵 at 11:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月01日

蒸発するブラックホール

 何でも吸い込むブラックホールが何故蒸発するのでしょう。最後はどうなってしまうのでしょう。ここでは、そういった話をすることにしましょう。

 1976 年、ホーキングが nature 誌に短い論文を発表しました。「ブラックホールが蒸発して消滅する」ということです。それは、当時の物理学者にとって非常な驚きを受けました。今ではその理論は、物理学者だけでなく多くの天文学者の間でも有力説であると受け入れられています。

 蒸発の最後が高エネルギーの電磁波である γ 線の噴出( γ 線バースト)として観測されるのではないかという理論もあります。

 普通、太陽の重さ( 1.99 * 10^30 kg )ぐらいのブラックホールを考えるときには、大きさは巨視的(半径 3 km 以上)でミクロなスケールで必要な量子論などを考えなくてもよい(これは量子力学でも一般相対論によるものと同じ答えになるためにある)のでありますが、ブラックホールが素粒子ぐらい小さい場合は、量子効果は無視できません。

 ブラックホールの大きさは質量に比例し、軽いブラックホールほど量子効果は重要になります。実際、ブラックホールの質量が 1 兆( 10^12 ) kg 、半径 10 c兆分の 1 ( 10^−13 ) cm 以下になると大きな影響が現れます。

 ホーキングがそのような小さなブラックホールに与える影響を考えました。その結果、ブラックホールが蒸発するという驚くべき事実がわかったのです。

 蒸発によって粒子を放出するとブラックホールは勿論エネルギーを失うので、その分だけ質量は減ります。質量が減るとさらにそれに反比例して温度は上昇するので、粒子からより多く放出します。その結果、ブラックホールは加速度的にその質量エネルギーを失い、最後には消滅します。

 この最後の瞬間は、まだどうなるかはわかっていませんが、いくつかの予測が考えられています。


 1992 年に発表されたホーキングの 2 次元ブラックホール理論が発表されるまで有力説として考えられていたものは、最後の瞬間に爆発してしまうというものでした。

 それは、蒸発してそのまま消滅するといったなまやさしいものではなく、爆発に近いものとなります。最後の 1000 トンのブラックホールは 1 秒間で消滅し、そのすべてがエネルギーに変換されます。

 蒸発してしまうブラックホールは超新星爆発緒起こした星が急激に収縮した量子効果が働くものに限ります。

 このモデルのブラックホールの蒸発の様子とは、次のようになります。蒸発によってブラックホールが小さくなっていくと、質量に反比例してブラックホールの表面がある温度で光るようにみえだし、最後には大爆発を起こします。

 ブラックホールからどんな粒子が出てくるのか、これについては、数値計算の結果( 1993 年当時の話では)、80 % がニュートリノ、17 % が光子、残りの 2 % が重力子として出てくることがわかりました。

 もし、蒸発するミニブラックホールがを利用して人工太陽を作ることができれば、例えば質量が 10^20 kg (つきの約 1000 分の 1 の重さ)で大きさが 10.0005 mm 程度のブラックホールがあったとすると、それはちょうど太陽の表面温度と同じくらいの数千度の温度で 10^−34 年にわたって光を放出します。宇宙年齢は 150 億( 1.5*10^10 )年であるので、ほとんど半永久的に究極のエネルギー供給源として利用することができます。

 では、ブラックホールの温度はどのくらいでしょう。太陽の重さ程度のブラックホールでは、絶対温度で 100 万分の 1 と非常に低いものになります、そのようなブラックホールが蒸発し、消滅するには宇宙年齢( 150 億年)の 10^54 倍もかかってしまいます。

 しかし、星の進化の最後にできるブラックホールや、銀河中心核に存在するといわれている巨大なブラックホールでは、この蒸発の影響はほとんど無視できます。

 では、実際に蒸発の影響が重要になる重さはどの程度でしょうか。重さがちょうど 1 兆( 10^22 ) kg のブラックホールは、今まさに蒸発し、消滅しようとしている段階にあります。その温度は 1 兆度にも達成し、高エネルギーの γ 線を放出します。しかし、現在のところ、まだその根拠は見つかっていません。


 しかし、実際のところは、ホーキングが考えたブラックホール蒸発理論は、従来までの相対性理論的な考えとは全く違ったもので、量子理論を取り入れたものでした。1974 年に発表されたブラックホール蒸発理論は次のようなものでした。

 量子理論によれば自然界では粒子と反粒子が瞬間的に生まれる「対生成」やそれらが消滅する「対消滅」が起きます。真空状態ではこの粒子と反粒子の対生成・対消滅が仮想的に絶え間なく繰り返されています。

 ブラックホールの値平面のすぐ近くの真空で粒子と反粒子の対生成が起き、対消滅でもとの真空状態に戻る前に片方の粒子がブラックホールに吸いこまれることがあります。残りの粒子は対消滅する相手を失ったので、境界地平面から飛び去っていきます。

 こうしてブラックホールからはニュートリノや光子などの粒子が放出されていきます。

 一方ブラックホールに吸い込まれた粒子は、遠方から見ると負のエネルギーをもったように見えます。こうしてブラックホールは負のエネルギーを吸収してエネルギーを失っていき、やがて蒸発してしまいます。

 蒸発してしまうブラックホールは量子効果がはたらく小さなスケールのブラックホールに限ります。宇宙誕生初期に小さなブラックホールが生まれる可能性が指摘されています。

 この時のホーキングによれば、小さなブラックホールのうち質量が 10 億トン以上のものは、現在まで生き延びている可能性があるといいます。質量 10 億トンの小さなブラックホールの半径を計算すると、それはおよそ 0.00000000000015 cm になります。



 では、このブラックホールの蒸発という不思議な現象はすべて解明されたのでしょうか。ブラックホールの重さが 0.01 mg 以下になった最後の最後が現在でもわかっていません。

 大きさにして半径 10^−33 cm まで小さくなったブラックホールの運命は、よくわからないのです。

 最後の最後を明らかにするには、「量子重力理論」といういまだに完成していない究極の理論を完成する必要があります。前世紀最大の理論である「量子理論」とアインシュタインの一般相対性理論との統一をめざす量子重力理論は、新世紀に入ってから今現在も、多くの科学者たちがそれを完成させようと挑戦していますが、いまだ量子重力理論は完成していません。

 1990 年代に入ってから「超ひも理論」がその候補ではないかと注目され研究されてきましたが、実際のところは、扱うスケールがあまりにも小さすぎるためにわかりにくい上、数学的にもそれを表すには非常に難しいことから、それが本当に成功するかはわからず、非常に難しいものとされていました。

 ホーキングは斬新且つ創造的なモデルを編み出しながらも、実は実証主義な保守派であるため、これを懐疑的にみており、独自で量子力学を引用して量子重力理論を研究しています。

 現在では、量子重力理論を完成を目標に、超ひも理論の多くのモデルだけでなく、ホログラフィック理論やブレーン理論など、現在さまざまなモデルが発表されています)。



 そんな中で 1990 年代初頭、ブラックホールの蒸発を 2 次元時空で考えるというプリンストン大学の C キャラン博士たちの研究が成されました。その結果、星が収縮していくとブラックホールができる前に、粒子が外に放出されて特異点も何も残らないとの結論が導かれました。

 これは、粒子が量子的に粒子・反粒子で対に作られるとき、質量をもったその粒子はそのエネルギー分だけ重力によって損失するので、対生成しにくくなり、その結果、実際に蒸発によって放出される粒子のほとんどは質量ゼロの粒子であると考えられていたからです。

(注:先述したように、現在の主力となっている考え方は、対生成されたあと、対消滅が起こる前にブラックホール自身の重力で片方の粒子がブラックホールに吸い込まれてしまい、残った片方の粒子は境界地表面から飛ばされると考えられています)

 しかし、その後何人かの研究者がキャランのその計算の誤りがあることが指摘されました。キャランのその研究に興味をもったホーキングはこのことについて研究を行い、1992 年 7 月に 2 次元ブラックホールについての論文を発表まし、ブラックホールは蒸発して裸の特異点が残る可能性の高いことを指摘しました。

 その内容は、それまでの物理学では全く説明がつかな「裸の特異点」ができ、話が単純ではないということがわかってきた、というものでした。

 このことから、ブラックホールの研究は究極理論の構築へ向けて、1990年代初頭で最もホットな話題となりました。

 ブラックホールの最後はどうなるのかについては、2000 年を越えた現在であってもわかっていないのでした…。



(...to be continue...)

 次回はホーキングの「ブラックホール蒸発理論」のお話にしましょうかね…。
posted by 梵 at 12:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月22日

相対論に修正は必要?

 前回の「微細構造がもたらす影響」についての話の続きの話となりますが、今回は「相対論に修正は必要?」…の話をします。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)
 
 何分、相変わらず、さらに密度が高くなるばかりで、まったく仕事がはけきらない梵であります…。

 すねあげがすっかり遅れていますが、ここまで遅れてしまえば、なんとやら…。

 流体ブラックホールの話は最終話となります…。



▼相対性理論に修正は必要?

 前回取り上げた流体ブラックホールのこのモデル(音響モデル)がホーキング放射の正確なアナロジーとなるには、重要な条件があります。ブラックホール近くで生まれる仮想的光子対と同様、仮想的なフォノンのペアが規定状態で生じなくてはなりません。

 実際の流体でも、この条件は容易に満たされるだろうと予測されています。流体のマクロな流れが時間的にも空間的にもゆっくりと変化している限り(分子レベルでの事象と比較して)、分子状態は系全体のエネルギーが最低になるように常に調整されます。流体がどんな分子でできていようとも、常にそうなります。

 この条件が満たされれば、流体の分散関係が 3 つのどのタイプであっても、ホーキング放射に似た放射が生じます。この放射は、流体のミクロな構造はほどんど影響しません。

 そうした効果は放射の中でも分子間距離に相当する非常に長い波長の短い成分にしか現れません。

 これは、ジェイコブソンの論文や阪上雅昭氏の関連論文にあるように、ホーキング放射のスペクトルに対する分散関係の効果は短波長でしか出現しないことが具体的な計算で示されています。

 さらに、分散関係がタイプ 2 (波長が短くなるにつれて速度が遅くなるケース)かタイプ 3 (逆に遅くなるケース)のいずれかであれば、ホーキングの当初の解析で予想された事態とは違って、波長が無制限に短くなるようなことは起こりません。

 波長はどんなに短くとも分子間距離も小さくなりません。

 無限の赤方偏移は、「無限に小さな原子」という物理的にありえないものを想定することによって生じる幻であり、実際には起こり得ないとジェイコブソンとパレンターニは指摘します。

(注:ここで問題にされていることは、ホーキング放射が存在するか存在しないかの話ではなく、ホーキングがホーキング放射において当初「波長が無制限に短くなる」と予想されたこのとの真否が問われており、ホーキングが示した最終的な結果は単純化していたものの、妥当な予想を示しています。)

 流体モデルによるこうした考察を実際のブラックホールに当てはめると、ホーキングの結論は、彼が問題を単純化していたにもかかわらず、正しいと考えられます。

 さらに、ブラックホールの事象地平で生じる無限の赤方偏移も、短波長の光が分散を示すと考えれば、流体モデルの場合と同様に回避できると見られています。

 但し、これには難点が一つあり、相対性理論によると、真空中を進む光に分散関係は生じないのです。何故なら、光子の波長は観測者によって異なって見え、高速に十分に近いスピードで動いている座標から見ると、波長はいくらでも長くなります。

 このため、分散関係がタイプ 1 (分散がないもの)からタイプ 2 やタイプ 3 へ変化するような、特定の波長の下限というものを決められません。何故なら、観測者によって、そうした下限も異なって見えるはずだからです。

 こうして、物理学者は苦しい選択を迫られるようになりました。「特別な座標系は存在しない」というアインシュタインの考え方を守って無限の赤方偏移を容認するか、無限の赤方偏移などを認められないと考えて特別な座標系を導入するか、そのどちらかを選ばなくてはならなくなったのです。

 特別な座標系は、相対性理論とどうしても相容れないものでしょうか? その答えは誰も知りません。特別な座標系はブラックホール近傍だけでなく、どこでも存在するのかもしれません。

 この場合、相対性理論は自然之本質を記述するさらに根本的な理論の近似にすぎないことになります。このような特別な座標系は、実験や観測では見つかっていませんが、単に観測精度が足りないために発見できないのかもしれません。

 物理学者たちは以前から、一般相対性理論と量子力学を統合するには距離というものに下限を想定する必要があり、その下限はプランクスケールに関連しているのだろうと考えてきました。

 音響モデルはこの考えかたを支持します。「無限の赤方偏移」という怪しげなものを排除するには、時空に何らかの粒構造が必要となってきます。

 だとすると、音と光の伝播には、アンルーが当初に考えた以上の類似性があるといえるとジェイコブソンとパレンターニはいいます(これはあくまでも近似的なモデルなのですが…)。

 一般相対性理論と量子力学の統合は、虚空が連続しているという理想化された見方を私たちに放棄させ、《時空の原子》の発見をもたらすだろうと彼らは考えます。

(注:ホログラフィック理論の発案者のマルダセナは、ホログラフィック理論によってどちらも否定せずにすむと見ています)

 実は、アインシュタイン自身も、同様の考え方をもっていました。彼は死の前年にあたる 1954 年、親友のベッソ( Michele Besso )あての書簡で次のように述べています。「物理学が場という、つまりは連続的構造の概念に基づいているだけでは済まなくなる、ということは十分に考えられると思う」。

 但し、この考えかたは物理学を根底からひっくり返すことになるだろうし、既存の物理学に代わる理論の候補は現在のところはまだはっきりしていません。

 アインシュタインは続けてこう書いています。「その場合、重力理論は含め、私の研究結果はどれも無に帰すことになる。それだけでなく、近代物理学のすべてが無に帰すのだ」。

 その後、50 年たった今でもアインシュタインの理論は顕在しています。

 将来はわからないとジェイコブソンとパレンターニはいいますが、それならば、近代の科学技術は成り立たなかったであろうし、アインシュタインの功績から得たその物理的な副産物である技術があるが故に、物理学者では否定できても、一般的には(特に技術者には)否定し難く、相対論を支持する者として、あいまいな量子力学に根拠を求める形となるでしょう。

(余談ではありますが、梵の家庭内では、この手の学者の意見が科学雑誌に掲載されていることが多いのが災いして、技術者から、量子力学の真否を問われています…。そこで、梵は、一例として量子コンピューターや量子半導体を挙げますが、まだ量子力学では解決されていないところが多くあるので、相対論や熱力学などの古典物理学ほど完成されておらず、原子より小さいスケールの粒子単位のスケールはまだ詳しいところまで解明されていないので説明できず、特に、重力が説明できないので、統一理論をはじめ、ひも理論、M 理論と次々にあみ出しましたが、それでも未だに解決できないので、その一つとしてブラックホールを解明しようとしたり、ホログラフィック理論で説明しようとしている、と数日前に説明したばかりでした。)

 また、アインシュタインの方程式「 E =mc^2 」が検証され(この公式に対する直接的な検証が行なわれた)、「 E =mc^2 」は 0.00004 % 以内の誤差で正しいことが nature 誌で報告されました。
参考文献:
nature 438, 1051-1190 22/29 December 2005 no.7071
Brief Communication p.1096 / World Year of Physis : "A direct test of E=mc^2"

 相対性理論の修正については、近似的なものでは、決定的なものではない(実際に光の粒子と音のフォノンとは性質が違う)ので、修正を迫るには難しいものがあると梵は考えます。

 今回は、流体ブラックホールという新しいモデルが出てきたということで、取り上げてみましたが、今のところは、近似的なモデルなようです…。



(...to be continue...)

 次回は…何にしましょうかね…。量が多くてどれにしようか迷っている梵です…。

 次回を御楽しみに…。

### これまでの参考資料 ###
■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話
未知の物理法則を探る
ブラックホール流体モデルの登場
微細構造がもたらす影響

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 15:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月21日

微細構造がもたらす影響

 前回の「ブラックホール流体モデルの登場」についての話の続きの話となりますが、今回は「微細構造がもたらす影響」の話です。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)
 
 今回は短編となりますが、これに関連するもがあれば、後日、このページにて対か掲載します…。



▼微細構造がもたらす影響

 流体の分子はフォノンにどのように影響しているのでしょうか。これを理解するのは非常に複雑で難解です。

 幸いなことに、アンルーが音響モデルを提唱してから 10 年後に、ジェイコブソンが問題を単純化するうまいアイデアを考え付いたといいます。

 流体の分子構造の詳細は基本的に、その中を伝わる音波の周波数と波長の関係に反映されています。この関係は「分散関係」と呼ばれ、波の伝播速度を決めています。

 波長の長い波の場合、伝播速度は一定です。波長の短い波は、波長が分子間距離に近づくにつれ、速度が波長に応じて変わるようになります。

 これには、3 つのケースが考えられます。ひとつは分散が内場合(タイプ 1 と仮定します)で、波長が短くても長くても波の振る舞いは起こりません。このほかに、波長が短くなるにつれて速度が遅くなるケース(タイプ 2 )と、逆に速くなるケース(タイプ 3 )があります。

 相対性理論での光子はタイプ 1 に該当します。タイプ 2 は、例えば超流動ヘリウム中のフォノンに当てはまり、タイプ 3 は希薄なボース・アインシュタイン凝縮体の中のフォノンが一例です。

 このように 3 つに分類することによって、分子構造が音波という巨視的スケールの現象にどう影響するかを解明するための扱いやすいモデルが得られることになるといいます。

 1995 年以降、アンルーをはじめとする研究者たちはタイプ 2 とタイプ 3 の分散関係が存在する場合のホーキング放射を考察してきました。

 ホーキング放射に対応するフォノンについて、時間を逆転したらどう見えるかを考えてみましょう。最初のうちは分散関係がどのタイプかは問題になりません。

 フォノンは音響地平に向かって流れていき、波長は短くなっていきます。しかし、波長が分子間距離に近づくと、分散関係が効いてきます。

 タイプ 2 の場合、フォノンは減速し、ついには方向を反転して再び上流へと向かいます。タイプ 3 の場合は、フォノンは加速し、長波長での音速の壁を破り、音響地平を超えていきます。

 タイプ 2 とタイプ 3 の場合、波長が分子間距離程度に短くなると音速が変化します。逆に長波長での音速は分散関係の影響を受けません。このような場合、流体の速度と長波長での音速が等しくなる場所(境界)として音響地平を定義します。

 従って、タイプ 3 の場合、波長の十分短いフォノンは音響地平を超えることができます。



(...to be continue...)

 次回は「相対論に修正は必要?」…の話をします。

### これまでの参考資料 ###
■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話
未知の物理法則を探る
ブラックホール流体モデルの登場

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月20日

ブラックホール流体モデルの登場

 前回の「未知の物理法則を探る」話の続きの話となりますが、今回は「ブラックホール流体モデルの登場」の話です。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)
 
 えぇぇ…。脊髄神経疾患という持病の都合上(平衡感覚さえもまったくなく)、絵が書けないので、説明にて努力してまいりましたが、今回ばかりはそうとはいかないようなので、めいいっぱい時間をかけて、下手な図を載せています…。

 すねあげがすっかり遅れていますが…(ぜぇ…)



流体モデルの登場

 光波と同様に、音波は周波数と波長、伝播速度によって特徴付けられます。

《流体ブラックホールの資料》
波のタイプ
古典的な記述電磁場の振動分子の集団的な運動
量子的な記述光子フォノン
速    度秒速 30 万 km秒速 1500m
(水中の場合)
波の進路を
曲げる原因
物質やエネルギーによる
時空の曲がり
流速や流れの方向の変化
記述が波状
する記述
プランク長さ?
( 10^−35 m )
分子間距離
(水の場合で 10^−10 m )


 音波という概念が、音波の波長が、それを伝える流体を構成する分子の分子間距離よりもずっと長い場合だけです。これよりも小さなスケールでは、音波は存在できなくなります。

 流体のアナロジーが興味深い理由は、まさにこの制限によります。この制限のおかげで、ミクロ構造がもたらすマクロな効果を調べられるようになるからです。但し、このアナロジーを本当に活用できるようにするには、量子レベルにまで拡張する必要があります。

 通常、流体中では分子が無秩序に熱運動しており、これが妨げとなって、音波は光の量子のようには振舞うことができません。しかし、温度が絶対零度に近づくと、音波も量子として振舞えるようになります。これが「フォノン」と呼ばれるもので、上のアナロジーでいうと光の粒子である光子に対応します。

 これらの構造は、結晶や、流体ヘリウムなど非常に低温の流体中では、フォノンはごくふつうに観測されています。

 流体が静止しているか均一に流れている場合、流体中のフォノンはまっすくに伝わり、波長や周波数、速度が変化することはありません。例えば、プールや静かに流れる川の中を伝わる音は、音源から耳へ直進してきます。

 しかし、不均一な流れの中では、フォノンの速度は変わり、波長が引き伸ばされる場合があります。曲がった時空の中で光子が受ける影響とちょうど同じです。例えば、狭い渓谷に差し掛かった川の流れや、排水口に渦を巻いて流れ込む水などの中では、音波は歪められ、曲がった経路をたどって進みます。

 これは、星の周囲で光が曲げられているのと似ており、実際に、一般相対性理論と同じ幾何学的手法を使って記述できます。

 そして、流体は、ブラックホールが光に及ぼすと同様の作用を、音に対して示すことがあります。つまり、流体を使ってブラックホールを近似的に模擬できるというわけです。こうした《流体ブラックホール》をつくるには、「ラバルノズル」という装置を利用する方法があります。

 ロケットエンジンの端についている「ラバルノズル」はブラックホールの類似物と考えることができます。ノズルに入ってくる流体のスピードは亜音速(音速未満)ですが、ノズルの途中が狭くなっているために加速され、超音速の流れとなって出ていきます。亜音速領域では音波は流れの上流に向かって伝わることもできますが、超音速領域にでは下流にしか伝わりません。つまり、ノズルの「くびれ」がブラックホールの事象地平と同様の働きをし、音波は超音速領域に入っていくことはできても上流には戻って来れなくなります。「くびれ」の部分で量子ゆらぎが発生すると、ホーキング放射に相当する音が生まれます。近似的ではありますが、言わば、《音響版》のブラックホールといえます。

 イメージとしては 2 つの牛乳瓶の口をつなげたようなもので両方の口のあたりが事象地平となり、その部分がブラックホールの入り口にあたります。

 ラバルノズルは、最も細くなっている部分で流体の速度が音速を超え、しかも衝撃波(流体の特性の急激な変化)が生じないように設計されています。この音響的な構造は、時空におけるブラックホールの構造と非常によく似ています。

 超音速領域はブラックホールの内部に相当し、流れと逆方向に向かう音波は下流へ流されていきます。これは、光がブラックホールの中心に向かって引っ張られるのと同じです。一方、流速が音速未満(亜音速)の領域はブラックホールの外部に相当します。音波は流れの上流に向かって伝わることができますが、光が赤方偏移するのと同様、音波も引き伸ばされます。そして、これら 2 つの領域の境界は、チュラックホールの事象地平とまったく同じに振舞います。

 もし、流体の温度が十分に低ければ、このアナロジーは量子レベルでも通用します。ブリティッシュコロンビア大学のアンルーは《音響地平》(超音速領域と亜音速領域の境界)がホーキング放射に相当する熱的なフォノンを放出すると提唱しました。

 アンルーが提唱したこの考え方は以下のようなことから成り立っています。

 音響地平の近くで生じた量子ゆらぎによって、フォノンの対が現れます。片方は超音速領域に引きずり込まれて二度と戻って来れませんが、もう片方は上流へと進み、流れによって引き伸ばされます。上流にマイクを置けば、わずかなノイズを検出できるでしょう。この音のエネルギーは流体の運動エネルギーのもととなっています。

 また、ノイズのスペクトルのピークはノズル構造に依存します。観測されたフォノンの典型的な波長は、流速が変化する距離で決まります。この距離は分子間距離よりもずっと大きいので、アンルーは当初、流体が滑らかな連続体であると仮定して計算しました。

 それでも音響地平の近くでフォノンが生じるのですが、その波長は非常に短くなり、流体の粒構造の影響を感じる筈だと考えられました。

 これは最終的な結果に影響するのでしょうか。流体はホーキング放射に相当するフォノンを実際に相当するのか、それともアンルーの予測は流体を理想化して連続体と考えたことによる幻に過ぎないのでしょうか。音響ブラックホールに関するこれらの問題についての答えが得られれば、実際のブラックホールについての同様の謎を解く手がかりとなるでしょう。

 ブラックホールを模擬するモデルとしては、遷音速流体のほかにも、さまざまなものが提唱されてきました。
《これもブラックホール!?――様々なモデル》

 ラバルノズルのほかにも、ぶらっうホールの事象地平と基本的に同じ特性を示すモデルがいくつか提案されています。いずれも波が一方向にだけ伝わるような系であり、ホーキング放射に似た現象を引き起こします。

■表面波

 環状に閉じた水路を循環して流れる流体について、流体内部を伝わる音波ではなく、表面波を考えます。イメージとしては回転流しそうめん器で片方を浅くしたものです。流れに乗って移動すれば、水路が浅くなっているところでは流速が上がり、ある段階で表面波は流れの上流へは戻らなくなります。ブラックホールの事象地平に似たものができるからです。さらに流れに乗って進むと流速が下がり「ホワイトホール」に相当する事象地平が現れます(ホワイトホールはブラックホールとは逆に、物質を吐き出すだけの天体です)。ホーキング放射に相当する現象を観察するには、ヘリウム 4 などの極低温の流体を使って実験する必要があります。

ブラックホールの表面波


■電磁導波管

 電磁波の伝播速度をレーザーによって微調整できるような導波管を作り、その中を伝わるマイクロ派を観察します。導波管の軸方向にレーザーを走査することにより、導波管を低速領域と高速領域に分ける境界(事象地平に相当する)を自由に動かすことができます。低速領域の電磁波は高速領域に達することはできませんが、高速領域の電磁波は境界を越えて低速領域に入っていけます。流体に基づく類似物に比べるとホーキング放射に相当する現象が強く生じ、観察しやすくなるでしょう。

ブラックホールの電磁導波管


■ガス雲

 葉巻タバコのような細長いガス雲が長軸方向に膨張していく様子によって、一定の加速度で膨張する 1 次元的な宇宙を模擬できます。そのような宇宙はブラックホールを《裏返し》にしたようなものとして振る舞い、事象地平の外側にある波はさらに外側へと素早く押しやられて、内部に入ってこられません。ホーキング放射に似た放射が、外側でなく内側に向かって放たれます。実験では、ガス雲としてボース・アインシュタイン凝縮体を使用することになるでしょう。極低温のボース・アインシュタイン凝縮体は量子論的な特性を備えているため、ホーキング放射と似た現象が起こります。

ブラックホールのガス雲

 一例ではありますが、音波ではありませんが、液体の表面や超流動ヘリウムの界面に生じるさざなみです(超流動ヘリウムは極低温で摩擦抵抗を完全に失った液体ヘリウムです)。

 また、アンルーとドレスデン工科大学(独)のシュッツホルト( Ralf Scchützhold )は細菌、小さなパイプの中を伝わる電磁波を調べる実験を提唱しました。このパイプをレーザーで走査すると、電磁波の伝播速度が局所的に変わるので、事象地平に相当する境界を作り出せます。

 さらに、別のアイデアでは、加速膨張宇宙に似た系によって、ホーキング放射のような現象を生み出します。これは、ボース・アインシュタイン凝縮体(非常に低温で個々の原子の区別がつかなくなったガス)は、加速膨張宇宙が光に対して及ぼすのと似た作用を音に対して生じます。凝縮体が自然に膨張するのに任せてもよいですし、磁場によって操作しても同じ効果が得られます。

 但し、これまでのところ、これらはまだ実験が遂行されていません。これには、とても複雑な手順が必要であるため、現在のところは、実験物理学者たちは他の低温減少を調べるので手がいっぱいの状態です。そこで理論家たちは、この問題を何とかして数学的に解こうと努力しています。



(...to be continue...)

 次回は「微細構造がもたらす影響」の話です。

### これまでの参考資料 ###
■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話
未知の物理法則を探る

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 14:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月19日

未知の物理法則を探る

 前回の「ホーキング放射の話」の続きの話となりますが、今回はブラックホールより「未知の物理法則を探る」話です。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)
 
 御題が御題なので、まずは、参考資料より下記に示します(後日、関連資料を発見次第、付け足して再更新します)。



▼未知の物理法則を探る

 ホーキングの研究は、完全な量子重力理論を打ち立てようとする試みの中で中心的な役割を果たしてきました。

 ホーキングがこれまで打ち立ててきた説のうち、「ホーキング放射」をうまく説明できるかどうかは、「超ひも理論」など、量子重力理論の候補が正しいかどうかの試金石となります(参考:下記にリンクを示してあるホログラフィック理論についての記事。および、J. マルダセナ「重力は幻なのか? ホログラフィック理論が語る宇宙」日経サイエンス 2006 年 2 月号)。

 多くの物理学者はホーキングの主張を認めていますが(実は、ホーキングはかのアインシュタインがそうであったように懐疑派な立場にあるロジャー・ペンローズと討論を交わしており、ホーキングの説に疑問をもっている中には学者もいます)、実験的にそれを確かめるのは不可能でした。

 何故なら、予想される放射は非常に弱く、とうてい観測できないからです。

 もし、ホーキング放射を観測できるとすれば、宇宙初期にできた微小ブラックホールを見つけ出して観測するか、加速器で微小ブラックホールを作り出すしかありませんが、現在の技術力では、これも(ほぼ)不可能に近いだろうと推測されています( J. カー/ S. B. キディングズ「ブラックホールを製作する」日経サイエンス 2005 年 8 月号)。

:ブラックホール作りは至難の技ではありますが、もし、空間に余剰次元があるのなら、近距離で働く重力は、物体をそれほど圧縮する必要がなくなります。もし、余剰次元が存在するなら、ブラックホール作りが近いうちに成功するかもしれません)

 ホーキング放射を実証的に確認できないというのは、研究者によっては実にいらだたしい状態です。

 何故なら、ホーキングの理論では光子が無限の赤方偏移を起こすことになるので、理論が誤りである可能性を捨てきれなくなるからです。

 ここで、ホーキング放射の過程を、時間を逆転して見るとどうなるかを考えてみましょう。

 光子はブラックホールに近づくにつれて青方偏移を起こし周波数が高くなります(波長が短くなる)。さらに、時間を遡ると、事象地平に接近して波長はますます短くなります。やがて、光子はもう 1 個の光子とペアを組むようになり、先に述べた仮想的な光子対になります。

 青方偏移はなおも続き、波長はどこまでも短くなっていきます。これが「プランクの長さ」として知られる 10^−35 m を下回ると、その光子がどうなるのか、量子論でも予想できなくなってしまいます。

 したがって、そこでは量子重量理論が必要となります。

 このようにブラックホールの事象地平は未知の物理法則を覗き見る素晴らしい顕微鏡となりうるわけです。

 理論家にとって、この顕微鏡の《観測結果》は大いに気に掛かります。

 もし、ホーキング放射の特性や、その存在そのものも、時空のミクロな特性に依存するものではないだろうか――物質の熱容量や物質中に伝わるおおとの速度が、その物質のミクロな構造と力学に依存しているように。

 或いは、ホーキング放射はホーキング本人が初期に主張していたように、ブラックホールのマクロな特質、つまり、質量と自転の角運動量のみによって決まるのでしょうか?

 これらの疑問に答えようとする試みが、ブリティッシュコロンビア大学のアンルー( William Unruh )によって始まりました。 1984 年、彼は流体中の音の伝播と曲がった時空での光の伝播がよく似ていることを示しました。

 例えば、川面を伝わるさざなみの様子は、時空の中を伝わる光とよく似ています。岩の周りでは流れが一様ではないので、さざなみがさまざまに変化します。これと同様なことが、星や惑星の重力場を通過する光でも起こっています。

 また、川の流れが速いと波は上流へ伝わることができませんが、これは光がブラックホールの内側から出て来られないのと同じです。

 この類似性を手がかりにすれば、ホーキング放射の起源にミクロの物理現象がどれだけの影響を及ぼしているのかを近似的に評価できるとアンルーは考えました。

 さらに、ホーキング減少に似た現象を、流体中で実際に観測できるかもしれないといいます。



(...to be continue...)

 次回は「流体モデルの特徴の話」をします。


### これまでの参考資料 ###
■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話
ホーキング放射の話

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 13:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月18日

ホーキング放射の話

 前回の「流体ブラックホールの話」の続きの話となりますが、今回は小十郎が大好きそうな「ホーキング 《放射》 」の話です。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。

参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)
 
 さて…。遅れながらも、思いっきりディープにはじめましょうかね…。



ホーキング放射

 量子効果と一般相対性理論の重力効果がともに顕著に現れるような状況はめったにありません。数少ない例の一つがブラックホールです。このため、ブラックホールは量子重力理論(量子力学の原理を身たる重力理論)を考える上で格好の材料となります。

 1974 年、英国はケンブリッジ大学のホーキング( Stephen W. Hawking )がブラックホールの「事象の地平」に量子力学を適用したことで、量子力学と一般相対性理論の統合に向けて大きな一歩が踏み出されました。

 一般相対性理論によると、事象地平はブラックホールの内と外とを分ける境界面で、その内側では重力が極めて強く、どんなものも外側へ出て来れません。但し、事象地平は物体でできた境界ではありません。

 例えば、宇宙旅行者が不幸にしてブラックホールに落ちたとしても、事象地平を横切る際に特別なことは何も感じません。しかし、ひとたび事象地平を通過してしまうと、二度と戻れないことは勿論、外にいるヒトへ光信号を伝えることもできなくなります。

 事象地平の外側へいる観測者が受け取れるのは、ブラックホールに落ちていくヒトが事象地平を横切る前に発した光に限られます。光はブラックホール周囲の重力ポテンシャルの壁を登る間に引き伸ばされ、周波数が下がり、持続時間が長くなります。この結果、観測者には宇宙旅行者の動きはスローモーションとなるほか、通常よりも赤く見えるはずです。

 この効果は重力による「赤方偏移」として知られ、ブラックホール以外でも起こります。例えば、人工衛生と地上局の間で無線信号の周波数やタイミングがずれるのもこのためです。全地球測位システム( GPS )を高精度に保つには、この効果を考慮に入れて補正していなければなりません。

 但し、ブラックホールの場合、宇宙旅行者が事象地平に近づくにつれて赤方偏移が無限に大きくなっていく点が特殊とです。外部の観測者の視点からは、宇宙旅行者がブラックホールに落下するのに無限の時間が掛かるように見えます。落ちていく本人にとっては、有限の時間内での出来事なのですが…。

 ここまでの説明では、光を古典物理学での電磁波として話を進めてきました。ホーキングが考えたのは、光の粒子としての性質を考慮に入れたときに、この「無限の赤方偏移」が何を意味するのかということでした。

 量子力学によると、完全な真空も本当は「空っぽ」ではなく、ハイゼンベルクの不確定性原理の結果、《ゆらぎ》で満たされています。この《ゆらぎ》は仮想的な光子のペアという形をとります。ここでいう「仮想的」とよばれるものは(架空上の仮定という意味合いではなく)、重力の影響の内平坦な時空では、これらの光子対が常に生成・消滅を繰り返し、痕跡をまったく残さないため、観測することができないためです。

 しかし、ブラックホール周辺の曲がった時空の中では、光子対の片方が事象地平の内側に落ち込み、他方が外に残される場合が考えられます。こうなると、光子対は仮想ではなく現実の存在に変わり、ブラックホールから外に向かう光の流れが生じて観測されるようになるほか、放射に応じてブラックホールの質量は減少します。

 この放射は燃え盛る石炭が発する熱放射と同じパターンとなり、これが、所謂、エネルギー分布が「プランク分布」と呼ぶパターンにあたり、その温度はブラックホールの質量の反比例します。これが、「ホーキング放射」とよばれる現象です。

 ブラックホールが新たに物質やエネルギーを呑み込まない限り、ホーキング放射によってブラックホールは質量を徐々に失っていきます。

 ここで重要な点は、事象地平のすぐ近くの空間は依然としてほぼ完全な量子真空に近いということです。これは、後にブラックホールの流体モデルを考える上で重要となりました。

 実際、ホーキング放射が生じるには、この条件が欠かせません。仮想光子対はエネルギーの最も低い量子状態(基底状態)にあたります。このため、仮想光子が現実の存在になるには、ペアが分かれて、片方が事象地平の壁を登ってくる必要があります。(これについては後日、詳しく取り上げます…)


 さて…。ここで、ホーキング放射について、その理論の真否について考えてみましょう。

《ホーキングは間違っていた?》

 ブラックホールに関して、実に大きな(そしてあまり知られていない)謎が残っています。「ブラックホールが放射を発する」というホーキングの予測に関する従来の知識からいう見た目上の矛盾がそれです。ブラックホールは「事象の地平」によって定義されます。事象地平の外にある物体がブラックホールの内側に落ち込むと、二度と出て来れません。真空中では、量子ゆらぎによって仮想的な光子のペアが常に生成・消滅を繰り返していますが、ホーキングは事象地平の上で仮想光子対が生まれたらどうなるかを考えました。

 まず、量子効果によって、ブラックホールの事象地平で仮想的な光子のペアが生まれます。一方の光子はブラックホール内に落ち、他方は重力ポテンシャルの壁を登って外へ進みます。こうして仮想の光子は現実の存在となります。放出された光子の波長は重力によって引き伸ばされます。

 相対性理論によると、事象地平から放射された光子の波長は無限に引き伸ばされます。言い換えると、観測された光子は仮想光子として誕生したときには「波長が限りなくゼロに近かったはずです。しかし、所謂、プランクの長さ( 10^−35 m )よりも小さな距離では未知の重力効果が支配的になるため、ホーキングの計算が正しいという保証はありません。この難問に取り組む有効な方法は実験です。そこで、ブラックホールを模擬する実験可能なモデルが考えられました。これらのモデルに基づいて、ブラックホールが本当に放射を発するのか、そしてどのように放射が生じるのかが研究されています。

 ホーキング放射についての真否の論点がわかったところで、ここで、ブラックホールと時空の構造についてまとめてみます。
    《ブラックホールと時空の構造》

  • 「ブラックホールは実は黒くない」。有名は物理数学者のホーキングは 1970 年代、ブラックホールは量子的な熱放射を発していると主張した。しかし、この考えには問題があった。何故なら、相対性理論によれば、ブラックホールの「事象の地平」で生まれた波は、伝わるにつれて無限に引き伸ばされる。したがって、ホーキング放射は無限に小さな空間から発することになり、そこでは量子重力による未知の効果が大きくなってしまうことになる。


  • この問題を考えるために、ブラックホールと似た振る舞いをする流体系が研究されてきた。流体は分子でできているので、波動が無限に引き伸ばされることがなく、ミクロの時空で起こる現象を既知の物理法則に基づいて考察できる。


  • その結果、ホーキングの結論は正しいと考えられることがわかった。また、標準的な相対性理論とは異なり、時空に《分子》のような微細構造があるとの考え方も生まれてきた。

 以上が、ブラックホールについての大きな筋書きです…。では、もう少し掘り下げで、「真空と仮想光子対」について考えてみましょう。



真空と仮想光子対

 量子論において、真空とは最もエネルギーの低い状態(基底状態)であり、言い換えれば粒子(光子)の全く存在しない状態をいいます。ところが、真空であっても「仮想光子対」という形での量子ゆらぎは存在します。

 真空のエネルギーはゼロナノで、そこから正のエネルギーをもつ光子を単独で生み出すことはできません。しかし、正と負のエネルギーの光子の対であれば、合わせてゼロなので生成できることが考えられます。

 この光子対は極めて短時間で短時間で生成と消滅を繰り返し、しかも、どちらかだけを単独で取り出すことはできません。これが仮想光子対とよばれる所以であり、「仮想光子対は真空のゆらぎという形でしか存在できない」という意味となります。

 以上は、平坦な時空での真空についての議論ですが、ブラックホールのような曲がった時空では事情が一変します。例えば、事象地平の近くで仮想光子対が生まれたとします。すると、わずかな確率ではありますが、ブラックホールの重力によって仮想光子対が引き裂かれ、負のエネルギー光子が事象地平の内側に落ち込み、正エネルギー光子がブラックホールから脱出することが起こりうる。これが「ホーキング放射」です。

 ブラックホール時空では、《粒子が存在しない状態》である真空についてさらに注意を払わなければなりません。実は重力に身を任せて自由落下している観測者と重力に逆らって地平の近くにとどまっている観測者では、真空が異なるからです。

 では、どちらの真空が選ばれているのでしょう。星か収縮してブラックホールになる場合を考えてみましょう。ブラックホール形成前は事象地平がないので、観測者は時空全体を見渡すことができます。

 これは、将来事象地平の外部になる領域と内部に落ち込んでしまう領域にまたがって真空が定義されていることを意味します。したがって、ブラックホール形成後も、自由落下している観測者から見て粒子(光子)の存在しない状態が自然な真空です。

 この観測者は事象地平を特に意識することなく通過でき、事象地平の内部と外部の両方について知ることができるからです(勿論、ふたたび外に出てくることはできませんが…)。

 ホーキング放射が生じ、そのスペクトルがプランク分布となるためには、事象地平の近傍はこの「自然な真空」でなければなりません。さらに重い星がその生涯の最後に収縮してブラックホールになる場合には、この自然な真空が実現されています。

 別の例として、重力に逆らって事象地平の近くにずっととどまっている観測者を考えてみましょう。この場合の観測者は事象地平の内側を知ることはできないので、観測者から見て粒子(光子)の存在しない真空は上記に述べた「自然な真空」とは異なります。

 したがって、事象地平近傍がこの真空であった場合には、ホーキング放射は生じないことが理論的に示されています。

 即ち、「自然な真空」の場合にはホーキング放射が生じ、事象地平近傍(この域でとどまっている状態で)この真空であった場合には、ホーキング放射は生じない、ということを覚えておきましょう…(^-^)



(...to be continue...)

 すねあげがすっかり遅れていますが…(ぜぇ…)

 次回は、「未知の物理法則を探る」話です…。


### これまでの参考資料 ###
■流体ブラックホール
流体ブラックホールの話

■ホログラフィック理論
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月17日

流体ブラックホールの話

 前回の「ブラックホールの謎を解く話」の続きのような話となりますが…。たまたまブラックホールの新説ネタが手元にあるのでその話をするようにしましょうかね…。

 最近「流体」といった名がつく学問が多くなりましたが、ブラックホールも例に漏れず、流体ブラックホールという説が浮上しました。

 それも、参考文献となるもの題して「相対論を書き換える流体ブラックホール」です…。なんの、現在までの知識(つまり、理論そのものというよりも物の見方)に対し、わかった矛盾点は直しましょうね…っというような内容を含んだブラックホールの話です。

 これまでに引き続き、下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。
参考文献:
日経サイエンス 2006 年 3 月号 p.23〜31
「相対論を書き換える ― 流体ブラックホール」
原題名 An Echo of Black Holes
( SCIENTIFIC AMERICAN December 2005 )
(Pour la Science 2002 年 5 月も執筆したものを加筆したもの) 
監修:坂上雅昭
筆者 Theodore A. Jacobson(メリーランド大学) / Renaud Parentani(パリ南大学・フランス国立科学研究センター)

 相変わらず、密度が高くなるばかりで、仕事がはけきらない梵でありますが、なんとかであるためぼちぼちあげであげましょうかね…。



▼相対論を書き換えるブラックホール?

 ブラックホールが放つ「ホーキング放射」には深い謎がつきまとっています。

 その解決を目指す理論研究から意外な可能性が浮上してきました。

 時空には超微細な《粒》の構造があるかもしれず、その場合には相対性理論に見直しが必要になるといいます…。


 アインシュタイン( Albert Einstein )は 1905 年に提唱した特殊相対性理論によって、光が「エーテル」という仮想的な媒体の振動であるとするそれまでの 19 世紀的な考え方を否定しました。

 光は何の物質も存在しない真空中を伝わりうると主張しました。基本的な物理学では音波も光も波であると説明します。しかし、量子力学では、音波はそれを伝える媒質の振動ですが、光は(似ているように見えて)まったく異なるといいます。

 特殊相対論性理論のこの特質は一般性相対論と量子力学という現代物理学を支える他の 2 つの柱とともに、ゆるぎのないものとなっています。現在に至るまで、原子よりも小さな極微の世界から銀河のような宇宙規模まで、すべての実験・観測データは、これら 3 つの理論によってうまく説明がついています。

 とはいえ、現代の物理学が非常に深遠な問題に直面しているというのも事実であり、よく知られるように、一般相対性理論と量子力学は合い入れません。

 何故なら、一般相対性理論は時空という連続体が曲がることによって重力が生じるとしますが、この考え方を量子力学の枠組みに組み込むのは非常に困難です。量子効果が顕著になるような非常に小さな空間が大きく曲がった場合に何が起こるのか、理解はなかなか進んでいません。

 そこで、一部の理論家は意外なところに手がかりを求めるようになりました。即ち、物性物理学――結晶や流体など、身の回りに見られる普通の物質に関する研究です。

 大きなスケールで見る限り、これらの物質も時空と同様、連続体に見えます。しかし、小さなスケールで見ると、物質は原子などのミクロな構造を持っていて、これらの振る舞いは量子力学の法則に支配されています。この点が時空との違いです。

 さらに、流れの不均一な流体中を尾とが伝わる様子(ドップラー効果)は、曲がった時空の中を伝わる光とよく似ています。

 このことから、筆者らはこの類似性に着目し、「ブラックホールの流体モデル」を研究しています。流体中を伝わる音波に基づいてブラックホールをモデル化することによって、ミクロな時空の振る舞いについて新たな手がかりを得るのが狙いです。

 時空が連続的であるというのは自明なのでしょうか。ブラックホール時空の性質を流体モデルを用いて研究する過程で、時空も天体のように《粒》の構造をもっていると考えられるようになってきました。

 また、アインシュタインの考えとは異なり、小さなスケールでは時空に「特別な座標系」が現れるようです。

 アインシュタインの相対性原理では、すべての座標は同等であると考えています。これに対して、流体では、流れとともに運動する「ラグランジュ座標」という特別な座標系が存在します。

 因みに、ブラックホール時空では、重力に身を任せて運動する自由落下系がラグランジュ座標に応答します。



(...to be continue...)

 次回は、ホーキング放射の話をします…。

### これまでの参考資料 ###
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
ブラックホールの謎を解く話
posted by 梵 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月16日

ブラックホールの謎を解く話

 前回の「境界面にあるホログラムの話」の続きとなります、今回はホログラフィック理論より、「ブラックホールの謎を解く話」についての話をします…。

 今回も前回に引き続き下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。
参考文献:
日経サイエンス 2006 年 2 月号 p.20〜28
「重力は幻なのか?―ホログラフィック理論が語る宇宙」
原題名 The Illusion of Garavity
( SCIENTIFIC AMERICAN November 2005 )
筆者 Juan Maldacena 
プリンストン高等研究所自然科学部門教授、旧ハーバード大学物理学科に所属
訳者:夏梅 誠
 何分、多忙なスケジュール梵であるため、すね待ちしている BlogPet 各位より大バッシングを浴びながらも、後日編集してあげしつづけている梵でありますが、ホログラフィック理論編は今日で最終回です…。

 さて…。始めますかね…。



▼ブラックホールの謎を解く

 さて。これまで述べてきた重力のホログラフィックな記述は、ブラックホールの性質を説明するのにどう役に立つか、これから見ていきましょう。

 ブラックホールは、1969 年にジョン・ホイーラーが 200 年以上も前の理論を視覚的に説明するために名付けた言葉です。一つはニュートンが好んだもので光は粒子だというもので、もう一つは波だとする理論で、現在ではこの考え方がどちらも正しいことを私たちは知っています。

 現在はその存在が確実視されている(既に発見されている)この天体は、現在は量子理論系で議論されることが多いのですが、元々は一般相対性理論をもとにして理論的に考えられた(予測された)ものです。

 先にブラックホールは視覚的に説明するために名付けられたと言いましたが、ブラックホールのような天体がある可能性を指摘した論文が、ケンブリッジ大学のジョン・ミッチェルは 1783 年にロンドン王立協会哲学紀要に論文を発表したのを始まりに、数年後にピエール・シモン・ラプラスが同様の指摘をしていたからです。

 1915 年にアインシュタインが一般相対性理論を提唱するまで重力が光にどのような影響をもたらすかについての矛盾のない理論は存在していませんでした。その一般相対性理論に基づいて、見たままの状態を「ブラックホール」とジョン・ホイーラーは名付け、1939 年に若きオロバート・オッペンハイマーによって初めて解決されました。(量子理論系ではブラックホールをまだ説明できないので、現在解明するにホーキングを筆頭とする多くの研究者によって研究が営まれています)

 オッペンハイマーの業績から私たちが現在わかっていることは以下の通りです。星の重力場は時空での光の経路を、星が存在していなかった時の経路から変化させます。これは日食の間に観測される遠くの星からの光が曲がるのと同じ効果です。時空ないで光が進む経路は星の表層近くではわずかに内側に曲げられます。そして、星が収縮すると、その密度は上昇するので、その表層の重力場はさらに強くなります(重力場は星の中心点から発しているものと見ることができます。星が収縮するとその表面は中心に近づくのでより強い重力場を受けるのです)。そして、より強い重力場では、表層に近い光の経路は、より強く内側に曲げられます。最終的に、星の半径がある臨界値まで収縮すると、表面の重力場はあまりに強くなるために光の経路も大きく曲げられてしまい、結果として光はもはや逃れることができなくなるのです。

 一般相対性理論によると、光より速く進むものはありません。したがって、光が逃げることができないのなら、皮下には逃げることのできるものなど存在せず、すべてが重力場によって引き戻されます、崩壊してしまった星は、その周囲に光といえども脱出できない時空領域を形成します。ここにとらわれた光は遠くの観測者にまったく届きません。この領域こそがブラックホールです。

 数学者のカール・シュバルツシルトの計算によって、物体の数積がごく小さいとき、物体のすぐ近くに歪みが極端に大きい空間が出現することが示されたので、その中心を「特異点」と呼び、その域をシュバルツシルト半径…などといった言葉が使用されます。

 このような収縮が理論上で起こり得ることを、オッペンハイマーによって示されたわけですが、さらに「重力崩壊」と呼ばれるその収縮メカニズムによってつくられる中性子星が実際に見つかったことで、ブラックホールの存在も有力視されるようになっていきました。

 現在ではハップル宇宙望遠鏡などの X 線や γ 線などで観測する望遠鏡のおかげで、私たちはブラックホールは最初に考えられたような稀な特異な天体ではなく、はるかにありふれたものであることがわかっています。実際、1 つの人工衛生が天体の本の狭い領域に 1500 個ものブラックホールを発見したこともあります。

 そんなブラックホールでありますが、現在では、ブラックホールは放射を起こすと考えられています。これは、ブラックホールから特定の温度で出てくる電磁波のことで、これを予言したスティーブン・ホーキングにちなんで、「ホーキング放射」と呼ばれています。

 即ち、ブラックホールには温度があり、放射を起こすことが物理数学者のホーキングによって 1970 年代に示されたわけですが、それ以来、物理学者たちの間では大きな謎に悩まされてきました。そもそも温度は多数の粒子が集団として示す性質をもちますが、それでは、ブラックホールを構成する粒子集団とは何なのでしょう?

 これをホログラフィック理論ではこの謎を以下のように解きます。ブラックホールは時空の境界面で相互作用する多数の粒子と同等なのです。

 ふつうの物理学系の場合、温度というものは、その系を構成する微視的な要素(分子など)の運動によるものとして理解されます。一般的にはそれが熱力学であったり、現代の科学技術で重宝されている量子力学であったりするわけですが…、即ち、統計力学と呼ばれる理論です。例えば、コップの水の温度も、太陽の温度も、それらによって説明されます。

 では、ブラックホールの温度とは何でしょう? それを理解するには、、ブラックホールを構成する微視的要素が何であり、それらがどう振舞っているかを知る必要があります。これを教えてくれるのは、量子重力理論だけなのです…。

 ブラックホールを熱力学で調べたところ、そもそも量子重力理論を作るのは不可能ではないカという概念が物理学者の間で浮上しました。何故なら、ブラックホール内で起きる効果によって、あたかも量子力学そのものが波状するかに見えたからです(注:この問題は「情報のパラドックス」として知られています)。

 しかし、現在では、反ド・ジッター空間にあるブラックホールについては、量子力学がきちんと成立していることがわかっています。これは、境界面での理論のおかげともいえます。

 反・ド・ジッター空間中のブラックホールは、境界面では多数の粒子が存在することに相当します。粒子の数は極めて多く、これがみな活発に動き回っているので、通常の統計力学のルールにしたがってその温度を計算できます。

 結果は、ホーキングがまったく別の方法で計算した温度と同じとなりました(両者とも凄いですね…)。このことは、マルダセナらが得た結果が信頼できることを示していると記述していますが、同じ結果が出たということは、それだけ理論展開の信頼性が高いということになります…。そして、最も重要なのは、境界面での理論は、通常の量子力学のルールに従っているという点であり、つまり、如何なる矛盾も生じていないということになります。

 ホログラフィックな対応を、これとは《逆向き》に利用している例もあります。これは、空間内部にあるブラックホールの既知の性質をもとに、境界面でのクォークとグルーオンの超高温での振る舞いを推測する試みです。

 さて…。これまでのホログラフィック理論に関する話では、 4 次元時空の性質を理解するために 3 次元の境界理論を考えてきましたが、ブラックホールに関する以下の記述では、現実のクォークの振る舞いを理解するために 4 次元の境界理論と 5 次元時空の性質を考えていきます。

 ブラックホールには、回転する物体による時空の引きずり効果という振るまいがあります。一般相対性理論によると、質量に由来する重力によって時空が曲がります。物体があるとその重力によって時空が曲がります。さらにその物体が回転していると、回転運動そのものが時空を曲げます。それによって、時空は回転方向に引きずられるように曲がります。この、回転する物体が、周囲の時空そのものを回転方向に引きずる効果を「レンズ・シリング効果」とよび、この引きずり効果を唱えた二人の物理学者の名にちなんで付けられました。

 ワシントン大学のソン( Dam Son )らは「ずり粘性率」という量を研究しました。この量は、さらさらと流れる流体では小さく、糖蜜のような物体では大きくなります。これをブラックホールの説で考えていけば、ブラックホールにも「ずり粘性率」に相当する物理量が考えられるのですが、彼らの結果によると、その値は極めて小さく、これまでに知られているどの流体より小さいものとなりました。従って、先に述べたホログラフィックな対応から考えると、高温で強く相互作用しているクォークやグルーオンも、極めて小さい「ずり粘性率」をもつはずです。

 米国立ブルックヘブン拳銃所の相対論的重イオン衝突型加速器 RHIG ( Relativistic Heavy Ion Collider )による実験で、この予測が検証されようとしています(注:参考文献となっている 2006 年 2 月発表当時の時点)。これは即ち、金の原子核を超高エネルギーで衝突させる実験です。これまでの暫定的な解析結果によれば、衝突によって粘性の非常に小さな流体ができている可能性があります。

 先に上げたソンらは単純化した量子色力学の理論をもとにしているのですが、それでも現実世界にも共通する性質を探り当てたようです。

 RHIC の実験結果は小さな 5 次元ブラックホールができていることを意味するのでしょうか?

 この点について、議論するのは、実験的にも議論的にも次期尚早だとマルダセナは述べていましたが…。まさか、それにまつわる危険性を議論するヒトはいないと思います…(微小ブラックホールができているとしても、現実面においては恐れることはありません。微小ブラックホールは生じるとほとんど同じに爆発するし、このブラックホールは 5 次元世界の《住人》であり、私たちの 4 次元世界の存在ではありません)まぁ、そんなことなど考える余裕もなく、ラストスパートします…。

 ホログラフィック理論については、まだ多くの疑問が残っているといいます。解くに重要なのは、反ド・ジッター空間の際立った特徴は、境界面をもっており、そこでの時間がきちんと定義できる点です。この境界面は(設定後から)ずっと存在してきたし、今後も永遠に存在しつづけます。これに対し、膨張している宇宙はビックバンから始まったので、きちんと定義できる境界面がありません。従って、私たちの宇宙に対してホログラフィック理論をどう定義したらよいのか、はっきりしません、つまり、宇宙にはホログラムを置くのにふさわしい場所がないのだといいます。

 しかし、ホログラフィック理論が変えられる重要な教訓が 1 つあると言います。地球上の優秀な頭脳を何十年も悩ませてきた量子重力の問題が、適切な変数で見たときには簡単になるという点です。

 ビックバンに関する簡単な記述がじきに見つかることを期待しよう!…と言葉を残していたマルダセナ教授でありました…。

 ひも理論よりわかりやすくて、よい理論ですね…(^-^)



(...to be continue...)

 ホログラフィック理論編はこれにて幕を閉じるわけですが…、実は「相対論を書き換える流体ブラックホール」なんぞいうねたがあります…。このねたには、参考文献として今回すねで取り上げたこのホログラフィック理論があげられているほど関連する内容となっています。

 …ということで、すっきりさせるに、続編あげることとなりました…。(ぜぇ…)

 お楽しみに…。


### これまでの参考資料 ###
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
境界面にあるホログラムの話
posted by 梵 at 20:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月15日

境界面にあるホログラムの話

 前回の「負の曲率をもつ時空の話」の続きとなります、今回はホログラフィック理論より、「境界面にあるホログラム」についての話をします…。

  今回も前回に引き続き下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。
参考文献:
日経サイエンス 2006 年 2 月号 p.20〜28
「重力は幻なのか?―ホログラフィック理論が語る宇宙」
筆者 Juan Maldacena 
(プリンストン高等研究所自然科学部門教授、旧ハーバード大学物理学科に所属)
原題名 The Illusion of Garavity ( SCIENTIFIC AMERICAN November 2005 )
訳者:夏梅 誠
 何分、多忙なスケジュールでバテている梵であるため、どこまでできるかわかりませんが、やってみますか…。



▼境界面にあるホログラム

 反ド・ジッター空間は無限に広がっているにもかかわらず、無限遠に「境界」があります。この境界を描くために、物理学者や数学者はエッシャーの絵のような《沈んだスケール》を使います。こうすることで、エッシャーの絵と同様に、私たちから見れば、無限の距離を有限に押し込めることができるのです。

 反ド・ジッター空間の境界は、エッシャーの絵のような外周や、「先に述べた円筒の表面に相当します。

 1 つは空間方向であり(円筒の周りを回る方向)、もう一つは時間です(円筒の長さの方向)。 4 次元の反ド・ジッター空間の場合、その境界は空間次元が 2 つと時間次元が 1 つの 3 次元時空となります。

 エッシャーの絵では境界が円であったように、 4 次元反ド・ジッター空間の境界は各瞬間で球となります。この境界こそが、ホログラフィック理論でいうホログラムが存在する場所です。

 ホログラフィック理論の考え方を一言で言えば、「反ド・ジッター空間の内部での量子重力理論は、境界面にある通常の素粒子論と完全に等価である」ということになります。もし、これが正しくて、両者が同等であるのならば、よくわかっている量子素粒子論を使って、未知の量子重力理論を定義できます。

 たとえば、同じ映画を収録した 2 種類の記録媒体があったとします。 1 つは 70 ミリフィルムのリールで、もう 1 つは DVD です。この 2 つのフォーマットはまったく違ったものです。前者はセルロイドでできた長いリボンで、それぞれのコマが映画の 1 シーンに対応していることが見て取れます。一方、後者は平べったいディスクであり、もし、それを目で見ることができるとしたら(見えるわけでもないのですがイメージ上で言えば)、小さな点が何重にも輪になって連なっていて、 0 と 1 のビット列を表しています。しかし、どちらも同じ映画を「表している」ことには変わりありません。

 これと同様に、表面的には完全に異なる内容に思われる 2 つの理論が、同じ宇宙を表します。 DVD は2次色に輝く金属ディスクのように見え、記録されたビット列が正しく処理されて初めて、詳細な画像が出てきます。境界面での素粒子論は重力を含まない理論に「見える」のですが、その方程式を適切な方法で解析したときにだけ、量子重力と新たなもう 1 つの次元が現れるのです。

 2 つの理論が同等であるとは、そもそもどういうことなのでしょう? まず、片方の理論で扱われるすべての対象について、他方の理論でもそれに対応するものがなければなりません。

 但し、それらの対象を記述する方法は両者でまったく異なる可能性があります。例えば、空間の内部にある 1 個の粒子を考えたとき、この存在に対応する境界面上の存在は、ある種の粒子の集団となるかもしれません。

 また、対応する対象についてそれぞれの理論の予言が一致しなくてはなりません。先の例でいえば、空間内部で 2 個の粒子が衝突する可能性が 40 % だとすると、境界面上での粒子集団の衝突確率も 40 % でなければなりません。

 もっと詳しく説明すれば、境界面にいる粒子どうしの相互作用は、クォークやグルーオンが実際に相互作用する様子とよく似ています(クォークは陽子や中性子の構成要素であり、グルーオンは「強い力」を生み出すことによってクォークを結び付けている粒子です)。

 クォークはある種の電荷を帯びており、この性質を「カラー(色)」と呼びます。その相互作用を記述するのが「量子色力学」です。一般的なふつうのクォークやグルーオンでは、カラーに 3 種類の可能性があると考えられています。これに対し境界面の粒子には、 3 種類ではなくたくさんのカラーがありうるのが大きな違いとなっています。

 オランダにあるユトレヒト大学のトホーフト( Gerard 't Hooft )がこうした理論を調べたのは 1974 年に遡ります。彼は、グルーオンは鎖をなして、ひも理論でいう「ひも」とよく似た振る舞いをすると提唱しました。このひもの正確な性質はよくわかりませんでしたが、 1981 年になって、現在プリンストン大学にいるポリャコフ( Alexander M. Polyakov )が、このひもが実質的にはグルーオンが存在する空間よりも高次元の空間に存在することに気がつきました。

 以下に述べるように、ホログラフィック理論では、その高次元空間は反ド・ジッター空間の内部のことをさします。

 どこから新たな次元が出てくるのでしょうか。これを理解するために、まず、境界面にあるグルーオンのひもを考えてみましょう。このひもには太さがあり、太さはそのグルーオンがどの程度の空間的広がりをもつかに関係しています。

 このひもが反ド・ジッター空間の境界面でどう作用し合うかを計算したところ、とても奇妙な結果が得られとたといいます。太さの違うひもは、あまり相互作用しないのです。

 これはあたかも 2 本のひもが空間的に離れているかのようです。したがって、ひもの太さを、境界面からの距離を示す新たな空間座標(境界面に垂直な空間座標)として解釈し直すことができます。即ち、この新たな座標こそ、4 次元の反ド・ジッター空間内部での運動を記述するのに必要な座標ということになります。

 つまり、境界面上の細いひもは境界面に近く、太いひもは境界面から遠いと考えることができます。境界面上の太さの異なるひもは、 4 次元反ド・ジッター空間の内部にいる観測者から見ると、太さはどれも同じですが、そこまでの距離が違うように見えます。

 尚、境界面上でのカラーの種類によって空間内部の大きさ(エッシャー風の球の半径)が決まってきます。理論によれば、観測可能な宇宙(私たちにとって観測が原理的に可能な宇宙)程大きな時空の場合、ざっと 10^60 種類のカラーがなくてはなりません。

 さらに、あるグルーオン鎖が 4 次元時空ではグラビトン(重力を伝える基本的な粒子)として振舞うことがわかっています。つまり、 4 次元時空での重力は、重力のない 3 次元世界での粒子の相互作用から生まれる二次的な現象ということになります。

 ここでグラビトンが登場してくるのは驚くにあたりません。1974 年以降、ひもから常に量子重力が生じることがわかっていました(この結果は当時北海道大学にいた米谷民明氏=現登場大学教授=によって初めて指摘されました)。グルーオンでできたひもも例外ではなく、もっともこの場合、重力はより高次元の空間で作用します。


 ホログラフィック理論では、境界面と内部は《双子の世界》にあたり、反ド・ジッター空間の境界面上で作用し合っているクォークとグルーオンは、空間内部に存在する粒子と実は同等です。空間内部は境界面よりも高次元の世界ですがホログラフィック理論は両者がいかに同等になりうるかを説明します。

 反ド・ジッター空間の境界面(球面)上でクォークとグルーオンが作用し合い、いろいろな太さの「ひも」ができます。ホログラフィック理論に基づいて解釈すれば、これらは空間内部に存在する素粒子と同等です。空間内部の素粒子もひもであり、これらの境界面からの距離は、境界面上のひもの太さに応じて決まります。

 空間内部の複雑な物体は、境界面上にあるクォークとグルーオンの集団によって記述できます。空間内部の物体に重力が働く場合でも、境界面上ではハッキリとした重力の相互作用が存在しません。ここがホログラフィック理論の利点です。
 

 このように、ホログラフィックな対応関係は、量子重力理論につながる大胆で新しい可能性を示しているだけでなく、むしろ、(超)ひも理論とクォークやグルーオンの理論とを基本的なところで結び付けています。量子重力の最有力アプローチである超ひも理論と、素粒子物理学の基礎であるクォークやグルーオンの理論とを関連付けているのです。

 さらに、ホログラフィック理論によって、超ひも理論の厳密な方程式について、いくつかの洞察が得られるようです。

 但し、ひも理論ないし超ひも理論においては、いくつものモデルがあり、その説には一貫性がなく、それぞれが異なる説を説くので、厳密に見ていく必要があるかと思えます。

 例えば、「ひもの性質を量子力学によって厳密に取り扱うと、アインシュタインの一般相対性理論がひとりでに導かれる」と米谷氏は 2005 年 2 月 1 日発刊のニュートン別冊『相対性理論と時空の科学』にて述べていますが、そのわりには何の数学的根拠も導き出せていませんね…。

 有能な数学者でもひも理論を解くことは難解だといいます。

 今回取り上げたのは、2006年の02月の日経サイエンスで、実際に導けていない状態であるものも明確に示し、その難しさや実際の考察のしかたを見てみれば、前者とは大きな違いで、マルダセナ氏は妥当な見解をもっているように思えます。

 Newton誌では、1984 年頃(第1次ブーム)から物理学者たちは点で駄目なら長さのひもであるのならどうだ」というのが始まりだと説明しますが、この違いはなんなんでしょうね…。この頃 5 つのモデルが提案されます。1995 年にエドワード・ウィッティンの提唱により第二次ブームが起きたと説明し、また第3のブームが来ると紹介していますが、解明されればすべてが説明できる万能理論だとうたうだけで、数学的に何の根拠も得られていないことも示されていません。

 これに対し、マルダセナ氏は遡って説明します。ひも理論は 1960 年代末に考え出され、もともとの目的は強い相互作用を説明するためのものでした。その後、量子色力学の大頭とともに、この目的でのひも理論研究は下火になりました。これが実際の姿です。

 境界面の粒子がどのように作用し合うかという詳細を変えると(境界面での量子色力学を変更すると)、空間内部に関するさまざまな理論が得られる場合もあるし、重力のほかに別の力m例えば電磁気力を含む理論になることもあります、他にもいろいろな可能性がありますが、残念なことに、私たちの宇宙に存在する 4 つのすべてを含む理論をもたらすような境界面の理論はまだわかっていません。

 ホログラフィックな対応をはじめて予想したのはマルダセナ氏で1997 年のことでした。その後、プリンストン大学のポリャコフとガブサー( Stepen S. Gubser )、クレバノフ( Igor R. Klebanov )のグループ、そしてプリンストン高等拳銃所のウィッテン( Edward Witten )の研究によって、この予想は定式化され、より明確なものになりました。

 以来、多数の研究者が研究に取り組んだ結果、この予想は他の次元や別の量子色力学にも一般化され、予想の正しさを示す多くの証拠が得られました、但し、これまでのところ、どの例も厳密には実証されていません。やはり、隠れた次元を示すのは、数学的に難しすぎるのです。



(...to be continue...)

 次回は「ブラックホールの謎を解く話」をします…。

### これまでの参考資料 ###
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
負の曲率をもつ時空の話
posted by 梵 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月14日

負の曲率をもつ時空の話

 前回の「重力の理論を求めて」の続きとなります、今回はホログラフィック理論より、「負の曲率をもつ時空」についての話をします…。

 今回も前回に引き続き下記の参考文献や、梵がそれまで蓄えてきた情報をもとに進めていきます…。
参考文献:
日経サイエンス 2006 年 2 月号 p.20〜28
「重力は幻なのか?―ホログラフィック理論が語る宇宙」
筆者 Juan Maldacena 
(プリンストン高等研究所自然科学部門教授、旧ハーバード大学物理学科に所属)
原題名 The Illusion of Garavity ( SCIENTIFIC AMERICAN November 2005 )
訳者:夏梅 誠
 さて…。バテバテ中の梵ではありますが、これ以上仕事を溜めてしまうと、いよいよ回らなくなるので、ドリンク剤を片手にやってみますか…。



▼負の曲率をもつ時空

 私たちにとって、ユークリッド幾何学はとてもお馴染みなものです。ユークリッド幾何学は平らな紙に描いた絵の幾何学で、その登場する空間は平坦であって、曲がってはいません。

 数学でいえば、幾何学は古代ギリシャに源をもち、2500 年におよぶ数学の歴史の中で常に中心的位置を占めてきました。幾何学は、平面や空間の中の図形がもつ「調和的性質」を見出していく学問として、また、私たちを取り巻く「空間」そのものを探求科学として発展してきたものであります。

 従って、私たちの周りの世界もユークリッド幾何学で非常によく近似できます。平行線は決して交わらないし、ユークリッドの他の公理も成り立っています。

 たとえ、曲がった空間にも、ある程度はなじみがあるだろうことが想定されます。その曲率は正である場合もあったり、負になるな場合もあります。正の曲率をもつ最も簡単な空間は、球の表面です。この球面の曲率は正で、一定の値になっています。即ち、球面はどの場所も同じ大きさの曲率をもっています(これに対し、タマゴの場合は、端の方の曲率が他よりも大きくなります。

 一方、負の曲率をもつ最も簡単な空間は「双曲型空間」と呼ばれます。曲率が負で、一定の値となっている空間です。この種の空間は、昔から学者と芸術化を魅了してきました。実際、エッシャー( M. C. Escher )は双曲型空間の美しい絵をいくつか残しています。それらは、ちょうど、地球(正の曲率をもつ球面)を地図に描いた場合に極点近くの国が一定の間隔で引き伸ばされるようなものです。

 さらに、時間の要素を加えると、「正や負の曲率をもった時空」というものも考えることができます。正の曲率をもつ最も簡単な時空は「ド・ジッター空間」と呼ばれます。これを最初に考えたオランダの物理学者ド・ジッター( Willem de Sitter )に由来する名前です。

 宇宙論研究者の多くは、宇宙の最初期はド・ジッター空間に近かったと考えています。また、遠い将来の宇宙もまた、ド・ジッター空間に近いものになるかもしれないと考えています(この場合、宇宙が加速膨張しているのと関係しています)。

 一方、負の曲率をもつ最も簡単な時空は「反ド・ジッター空間」と呼ばれます。反ド・ジッター空間は双曲型空間とよく似ていますが、時間次元を含んでいる点が異なります。

 膨張を続ける私たちの宇宙とは違って、反ド・ジッター空間は膨張も収縮もしません。この空間は常に同じに見えます。私たちの宇宙とは違っているにもかかわらず、反・ド・ジッター空間は時空と量子論を構築していく上で、たいへん役立つことがわかっています。

 エッシャーの絵に習って、双曲型で空間を円盤で表すとします。すると、反ド・ジッター空間はこれらの円盤を積み重ねたものとして表現でき、一つの円筒となります。

 円筒の長さ方向が時間の経過に相当するとします。空間の次元が 2 つよりも多いっ双曲型空間もあります。空間次元が 3 つあると、私たちの時空に最も近い反ド・ジッター空間となります。この場合、《円筒》の断面は 3 次元の《エッシャーの絵》となります。

 ホログラフィック理論では、この「反ド・ジッター空間」として負の曲率をもった空間が登場するので、この理論は物理を深く理解するにとても役に立ちます。

 双曲型空間を表す空間が、次々に積み重なっているところを想像しましょう。それぞれの円筒はある時刻での宇宙の状態を示しています。円盤が積み重なってできた円筒が 3 次元の円筒が 3 次元の反ド・ジッター空間で、円筒の長さ方向は時間に対応しています。このような時空では、変わった現象が起きます。例えば、中心から投げ出されたボールは、いつも同じ時間がたった後に戻ってきます。レーザービームは宇宙の端まで届きますが、やはり、同じ時間で戻ってきます。これに対し、4 次元の 反ド・ジッター空間は、私たちの宇宙により似たものになりますが、各時刻での境界は、次元が 1 つ増えたために、それは円ではなく、球になります。

 この「反ド・ジッター空間」での物理現象には先述したように変わった性質があります。たとえば、あなたが反ド・ジッター空間のどこかに自由に浮かんでいたとすると、あたかも重力ポテンシャルの底にいるように感じるはずです。あなたが投げたどんな物体も、ブーメランのように戻ってきます。意外なことに、物体が戻ってくるまでの時間は、どれだけ強く投げたかにはよらないこともわかっているはず(例えば、重力の働きで重い物体ほど速く落ちるから)です。強く投げれば投げるほど、物体は遠くまで飛びますが、違いはそれだけです。

 また、光を放ったとします。光は光子からできており、許される最高速(光速度)で運動しますが、無限遠に辿り着いた後に、また戻ってきます。これは、物体を投げた場合と同様に、これも同じ有限の時間内で起きます。

 こうしたことが起こるのは、物体があなたから遠くへ行けば行くほど、物体にとっての時間の進みが速くなるためです。


 さて…。ここで、理解を深めるに、量子重力をめぐるキーワードを下記に示します…。
    《量子重力をめぐるキーワード》

  • ひも理論(弦理論)

  •  この理論が出現当時は、物理現象はひもでつながっており、ひもで説明できるといったような専門書を読んで「なんだこれは?」と落胆したことがある梵です。その後、ホーキングシリーズでひも理論が取り上げられ、根拠となる数学で説明できないと学者たちが漏らしていたのを見て、「そんなこったろう」と見ていた梵です。その後、基本粒子が極めて短い「ひも」であるという考え方に基づく理論として説明されるようになります。ひもの振動によって、さまざまな種類の粒子が出現すると考えます。重力を記述する一般相対性理論と、他の力を説明する量子力学とを統一する理論として、最も有望と見られています。が、しかし、未だ数学上の根拠は得られずに終わっています。超ひも理論(超弦理論)は超対照性を導入したひも理論のことで、現在では単にひも理論といえば、超ひも理論をさします。

  • 自然界の 4 つの力

  •  自然界には「強い力」、「弱い力」、電磁気力、重力の 4 種類の力が存在します。強い力は原子核中の陽子や中性子を結び付けている力です。弱い力は β 崩壊などに関連する素粒子の相互作用のことをいいます。重力を除く 3 角力は(現在では)量子論の枠組みの中で記述されます。物理学界では、重力を含め、すべての力を統一的に説明する理論が求められています。

  • ホーキング放射

  •  ブラックホールが光子などの粒子をランダムに放射する現象で、ホーキングが 1974 年に理論的に(数学で)示したものです。この放射に伴ってブラックホールは徐々に質量を失い、最終的には消えてなくなるとされています。これがブラックホールの「蒸発」です。

  • 情報のパラドックス

  •  ブラックホールが「蒸発」する際、それまでにブラックホールが呑みこんだ物質の情報を一緒に消滅するとホーキングは主張していました。しかし、量子力学の基本原理によると情報は保存される筈で、30 年来の謎とされてきました。が、その後の観測結果によってそうでなかったことから、ホーキングがその誤りを正しました。
 これらのキーワードは後々、理解する上で重要なポイントとなっていますので、よく覚えておきましょう。



(...to be continue...)

 次回は、「境界面にあるホログラムの話」をします…。(ぜぇ…)


### これまでの参考資料 ###
ホログラフィック理論の話
重力の理論を求めて
posted by 梵 at 01:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月13日

重力の理論を求めて

 前回の「ホログラフィック理論の話」の続きとなります、今回はホログラフィック理論より、「重力の量子論を求めて」の話をします。



▼重力の量子論を求めて

 ある種の物理学者にとって、重力の量子論は探し求めてやまない聖杯のようなものにあたるかもしれません。というのも、あらゆる物理現象のうち、重力だけが量子力学の法則では説明できないからです。

 現在の物理学では、物理現象を量子論に基づいて記述することが基本となっており、重力の理論だけがそれに従わないというのは、理にかなわない状態(この状態では物理学では説明ができないという気まずい状態)であるので、難問とされている問題となっています。

 量子力学は約 80 年前に、原子やそれより小さい領域での粒子や力の振る舞いを説明する理論として誕生しました。サイズ的には、現在の生物学における分子はアインシュタインまでの物理学で、量子力学はそれより小さなものを扱います。

 こうした小さなスケールでは、量子効果が顕著に現れます。

 量子論は、物体はハッキリとした位置や速度を持たず、その代わりに、どこに位置するかを示さず確率によって記述されます。

 量子論の世界では、すべてが絶え間なく変化しており、「空っぽの空間」でさえも、実際には永遠に生成・消滅を繰り返す仮想粒子で埋め尽くされていると考えます。

 これに対し、重力に関する最良の理論である一般相対性理論はそもそも古典物理学論的な理論で、その思想は古典物理学考え方を基盤としています(量子理論的な視点では考えられていません)。

 アインシュタインの最高傑作である一般相対性理論によれば、物質やエネルギーが集まると時空が曲がり、その結果、粒子の軌道が曲げられて、重力場の中で粒子の軌道が曲がるのと同じようになります。他の理論に比べ美しい理論(明快な理論)であり、その予言の多くは非常に高い精度で確かめられています。

 一般相対性理論などの古典論では、物体の明確な位置と得度を持ちます。例えば、太陽の周りを回る惑星が一例です。これらの位置と速度、そして物体の質量を一般相対性理論の方程式に代入すれば、時空の曲率を求めることができ、重力が物体の軌道にどう影響するかを確認できます。

 さらに、空っぽの空間は完全に滑らかであり、どんなに細かく調べてもそれは変わりません。さらに小さなスケールで見ていけば、時空は、物質とエネルギーが活躍する《継ぎ目のない舞台》にすぎないものであることがわかります。

 そうであるにかかわらず、見た目上のものに惑わされたり、説明できないこと見落としたりということがよくあります。(注:それだけ、真実を見出すのが難しいということです。それは、どんなに天才であっても優秀であっても、ヒトの脳は経験値で作られ、脳の構造上エラーなども起こりやすいだけに、物理上、目には見えない物理現象を解き明かすのは非常に難しいのです。)

 一般相対性理論の量子版を考案する上で問題となるのは、原子や電子のような小さなスケールでは粒子が明確な位置と速度を持たないという点だけではありません。

 問題をさらに難しくするのは、プランク長さ( 10^−33 cm )というさらに小さなスケールの存在があるからです。量子論の原理によれば、このスケールでは時空それ自身が煮えたぎる泡のような存在と考えられています。これは、からっぽの空間を埋め尽くす仮想粒子の海と似ています。

 物質と時空がこのように変幻自在となる小さなスケールで、一般相対性理論の方程式からは何が導けるでしょう。結果から先に言えば、一般相対性理論の方程式はもはや適切ではなくなります。

(何故ならば、視点となるスケールが原子レベルまでのものであるため、これを、それより小さいスケールのものをそのまま適用させると、数学でいう底辺を等しくしていないため、「=」で答えが求められません。即ち、一般性相対論は古典論にみられる見た目上のスケールとなるからです。それは、例えるならば、人体の脳の構造や現象や、物理学理論を考察せずに、現存する科学技術から得たデータのみで生物の魂や念というものを検証して判断することと同じようなもので、事実を確実な見解から解明ができずに終わるのと同じようなものなのです。)

 もし、物質が量子力学の法則に従い、重力は一般相対性理論の法則に従うと仮定すると、数学的な矛盾に行き着いてしまいます。そこで、量子力学のパラダイムに合う重力理論、量子重力理論が必要になります(物理学上で各説をつなげる理論が必要ということです)。

 もっとも、量子力学と一般性相対性理論の矛盾は、たいていは問題にはなりません。多くの場合、量子効果と重力効果のどちらか一方はあまりに小さく、無視できるからです。

 しかし、時空の曲率がとても大きくなると、重力の量子的な側面が効いてくるようになります。即ち、時空を大きく曲げるには、とても大きな質量が存在するか、質量を小さな領域に押し込める必要があるということになります。

 とはいえ、太陽近くの曲率でさえ、量子重力的な効果を生み出すのに必要となる曲率と比べると、取るに足りません。

 このように、通常は量子重力的な効果を完全に無視してもよいでしょうが、ビックバンがどう始まったのかを説明するには非常に重要なものだったのです。このため、ビックバンがどう始まったのか説明するには、量子重力理論が必要となります。

 また、量子重力理論は、ブラックホールの内部で何が起こっているのかを理解する上でも重要となります。何故なら、ブラックホールの中では物質が押し潰され、時空の曲率が非常に大きくなっているからです。

 重力は、時空の曲率と関係しているので、その意味では量子重力理論は「福うの量子論」であるともいます。これら、述べられてきたような理論上の流れから、この理論によって、先述した「時空の泡」がどのようにできているかがハッキリする筈だと考えられています。そして、時空とは本当のところなんナノか、まったく新しい見方がもたらされるだろうと推測されています。


 1970 年代から研究されてきた「ひも理論」は量子重力理論の有力候補として挙げられていました。(厳密に言えば「超ひも論」のことで、その前身の「ひも理論」は数学上で行き詰まったことから、崩壊したかと思われましたが、物理理論上で認められたその一部は物理学上で統一される段階で「超ひも論」として有力候補の一つとして挙げられています。)

 今回話題としている参考文献は、一度理論上において、根拠となる数学上の答えが導けず、説明できずに崩壊した「ひも理論」に対しての話を取り上げているのか、それとも、淘汰して進化できた「超ひも理論」をさしているのか明確に記述されていないので、梵の見解上で判断して話しを進めていくとします。

 それまで理論的に矛盾のない量子重力理論を作ろうとすると、いろいろな障害が出てきますが、「超ひも理論」である場合、それらを克服しています。このことから、今や物理学ではすべての現象を説明できる一つの説として、 Newton 誌の別冊でも取り上げられるようになりました。

 但し、この「超ひも理論」は未完成のままであり、まだ完全には理解されていません。超ひも理論の研究者は、ひもの振る舞いを示す近似的な方法を知っているものの、完全な方程式はわかっていないのです。また、これら近似的方程式の基礎となる原理もわかっておらず、現実に存在するありとあらゆる物理量をどうすれば方程式から導き出せるのかも不明となっています。

 近年、興味深い驚くべき結果が数多く示され、量子時空がどのようなものかを理解する新しい道が開けました。この記事では余り詳しく説明されていませんが( R ブッソ/ J. ポルチンスキー「進化した世界像 ひも理論が描く多重宇宙」日経サイエンス 2004 年 12 月号、別冊日経サイエンス 146 『時空の起源に迫る宇宙論』にも収録されています)、その代わりに、超ひも理論から生まれる最近のエキサイティングな進展の 1 つに焦点を当てたものが日経サイエンス 2006 年 2 月号で取り上げられました。
参考文献:
日経サイエンス 2006 年 2 月号 p.20〜28
「重力は幻なのか?―ホログラフィック理論が語る宇宙」
筆者 Juan Maldacena 
(プリンストン高等研究所自然科学部門教授、旧ハーバード大学物理学科に所属)
原題名 The Illusion of Garavity ( SCIENTIFIC AMERICAN November 2005 )
訳者:夏梅 誠
 この成果によって、「負の曲率時空」と呼ばれる時空においては、論理的に矛盾のない形で、重力を量子論的に記述することが初めて可能になりました。

 その流れから考えれば、この時空では、ホログラフィック理論は正しいようです。
    《同等な世界を探る》
  • 「ホログラフィック理論」と呼ばれる物理学の理論によると、重力のない 2 次元空間は重力のある 3 次元空間と完全に同等だと考えられる。ホログラムから生まれる立体映像のように 3 次元の世界は二次元空間の物理から生じているのかもしれない。


  • この 2 次元は、 3 次元空間の境界面に存在する。境界面上で起こっているクォークやグルーオンが強く相互作用する様子に似ている。量子重力理論は「超ひも理論」の研究者が何十年もわたって進展させてきたものである。


  • 上に述べた 2 つの世界が同等であることから、量子力学と重力理論を適切に融合する道が開け、ブラックホールの性質を理解する新たな手段が得られるようになった、ホログラフィック理論は(超ひも理論と同様に)数学的にはまだ厳密には照明されていないが、高エネルギー物理学の最近の実験結果を会席する上でも役に立ちそうだという。
 但し、誤解のないように補足をつければ、上記に挙げたまとめで、3 次元としたのは、一般相対性理論で理論展開との区別をつけるために 4 次元とせずに、 3 次元と仮定して理論展開しています。

 即ち、(底辺を等しくするために)相対性理論的な「時空概念」を差し引いて、3 次元であると整理して理論展開しています。

 従って、「アインシュタインが説明する 4 次元であるとする考え方が間違いだ」というものではありません。古典物理学(原子サイズまでの見解)では、理論的に認められるものです。



(...to be continue...)

 さて…。次回は、「負の曲率をもつ時空」についての話をします…。
posted by 梵 at 02:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月10日

ホログラフィック理論の話

 あらゆる物理現象のうち、重力だけが量子力学の法則では説明できませんが、最近、『ホログラフィック理論』なる驚異的な理論が登場したらしく、そこから重力の量子理論への展開へと構想を練るに、試みられているようです。

 梵がこれを知ったのは、日経サイエンス 2006 年 2 月号に取り上げられていた 「重力は幻なのか? ―ホログラフィック理論が語る宇宙」というプリンストン高等研究所の J.マルダセナの論文を読んだことからにはじまります。

(実際には2003年には出ていた理論のようですが、お題がお題だったので、情報を入手せずに通りすぎちゃったんでしょうかね…。というのは、現在の日経サイエンスは時々おかしな論文を掲載することがある程度ですんでるのですが、ポストゲノム到来中だった一時期はおかしな論文を掲載することが富みに多かったため、この時期はnature誌に絞って情報法入手していたので、まじまじと読んだのはこれが初めてでした…。)

 とはいえ、この理論はまだ、対応例については、何の根拠もあげられない状態(つまり、ひも理論と同じく、数学的に答えが導けていない状態)で、まだ完成はしていないようですが、どうしましょうかね…。

 小十郎たちにリクエストを受けたので、食事時もあって、あとから挙げる予定にしてますが…。

 なんです…。妙に小十郎たちがせつくので、まず、ちょっとだけあげます。



▼ホログラフィック理論とは

 スタートレックのホログラムの実現ができるといった、スタートレックの物理学設定を支持するものではありません…。

 ホログラム理論は、ある空間内部に関する物理法則と、その空間の境界面上で働く別の物理法則を関連付けるものです。

 例えば、シャボン玉の中に道化師がリンゴでお手玉をしている映像があるとします。この道化師がリンゴを投げているのは 3 次元空間で重力が働いていることを強調し、一方、道化師の姿はシャボン玉の姿に映し出されます。それは、映像なので、重力は働いていませんが、リンゴが重力で落ちる様子は映像にも映し出されています。

 ホログラフィック理論によると、2 次元の立場でリンゴが落ちるように見えるのは重力のせいではなく、映像がもっている「カラー」という性質のためだと考えます。このため、謎に包まれていた量子重力理論を、よく知られた「カラー」の理論(素粒子物理学の理論)を使って記述できるようになったといいます。

 このホログラフィック理論によれば、私たちが感じている重力や空間次元の 1 つはもっと次元の低い時空での粒子の相互作用から生まれる一種の「幻」かもしれないといいます。

 アインシュタインを超える驚異の理論から、新たな宇宙像が浮かび上がってきました。


▼重力は幻なのか?

 上下、左右、そして前後――空間の次元が 3 つあることは、私たちの身の回りを見れば実感できます。これに時間を足せば、空間と時間が 4 次元で溶け合った「時空」になります。

 というわけで、アインシュタインによれば、私たちは 4 次元の宇宙に住んでいます。しかし、原子からさらに小さくなり量子や素粒子の世界の話になると、「何故解けないんだろうね…」と語りかけて来るようになります。そして、さらに、「えっ、本当にそうなの?」…などと疑問をしばしば投げかけるわけです。

 ホーキングによれば、「ベビーユニバース」だの、「時間の矢」だの、「ブレーン」だの、「ブラックホールは…!」などと新理論を提示されている中、量子理論はさて置き、「ひも理論 VS 統一性理論」の話題で持ちきりとなり、気がついたときには、「超ひも」と「M理論」が登場して、多次元空間が存在する…なとどいった理論展開が科学特集雑誌にと取り上げられてきたこの10年余り…。

 そして、驚くべきことに、物理学の新しい理論によれば、 3 次元空間の 1 つの空間は一種の幻想なのかもしれないといいます。

 私たちは素粒子や場が 3 次元(アインシュタインの時空の説でいえばこの世界は 4 次元)に存在すると思っていますが、実はすべてが 2 次元の中で動き回っているというのです。

 それは、アボット( Edwin A. Abbott )の小説『フラットランド』のように、多次元世界の平面国の住人というのと同じようなもので、重力もまた、この幻の一部であり、2 次元世界に存在するのではなく、第 3 次元(アインシュタインの時空の説で言えば 4 次元)は幻の次元と共に現れる力だといいます。

 より正確に言うと、現実の次元の数をどう捉えるかは見方の問題であることを、この理論は予言しています。つまり、物理学者が現実を記述する上で、形式のまったく異なる表現が許されます。

 例えば、 3 次元の中で重力を含む一連の法則に従うものとして現実を表してもよいし、それとは別の法則(但し、重力のないもの)が成立する 2 次元世界として現実を表現することもできます。

 これら 2 つの記述はまるで異なっていますが、どちらも私たちが見ているすべての事柄、宇宙のあらゆる現象をうまく説明することができるようになります。とすると、どちらが「本当に」正しいのかを決める方法はありません。

 こうした考え方は想像に余るものかもしれませんが、似たような現象は日常生活にも見られます。例えばホログラムです。

 ホログラムは 2 次元の物体ですが、適切な光を当てると、完全な 3 次元像を生み出します。 3 次元映像の元となるすべての情報が、 2 次元のホログラムに暗号化されて蓄えられているのです。

 これと同様に、物理学の新理論によれば、宇宙全体があらゆる種のホログラムなのだと考えられます( J. D. ベッケンスタイン「ホログラフィック宇宙」にゥ系サイエンス 2003 年 11 月号。別冊日経サイエンス 149 『時空の起源に迫る宇宙論』にも収録)。即ち、素粒子上の見解スケールでみると、そのようになるわけです。

 この「ホログラフィック理論」には、単なる知的お遊びや哲学的な興味を遥かに超えた意味があります。まず、一方の記述では計算がとても難しくても、他方の記述では比較的簡単になる場合があるため、物理の厄介な問題を簡単に解ける問題に飼えてくれます。

 例えば、高エネルギーの加速器を使った素粒子物理学の最近の実験結果を解析するのに役立つ可能性があります。

 さらに、ホログラフィック理論によって、重力の量子論(量子力学の原理を満たす重力理論)を構築する新たな道が開けます。重力の量子論は、自然界のすべての力を統一しようとする試みの鍵を握っており、ブラックホール内部で起きていることや、ビックバンの直後、数ナノ秒の間に何が起こったのかを説明するためにも必要なものです。

 これまで、重力の量子理論的側面には深い謎が付きまとってきましたが、ホログラフィック理論はこれらの謎を解いてくれる可能性があるというのです。



(...to be continue...)

 次回は、続編にて、「重力の理論を求めて」についての話をします。

posted by 梵 at 19:43| Comment(1) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月09日

工学で見たジャンク DNA

 さらに前回の「工学から生命の基本分子のパターンを…(2)」の続きとなりますが、「工学で見たジャンク DNA 」についてどのように思考されているのかを、見ていきましょう。

 前々回、前回に引き続き、下記の文献を参考に示していきます。
参考文献:
日経サイエンス 2005 年 6 月号 p.58-65
「生命の基本分子を貫くパターン」著者内藤健 
 尚、前回でもそうだったように、最新の情報まで入れてしまうと説明が複雑化して面倒になるので、発表された当時のもののままで進めていきます。

 …の話でしたが、うーん、どうしましょうね…。今の時期にこれを挙げるには、ちょっと改定が必要のようです…。



▼ジャンク DNA は何のため? ― 組み換えと進化の関係

 塩基濃度の非対称性と繰り返しパターンの関係についてこれまで紹介してきましたが、ヒトゲノムの大部分を占める《ジャンク DNA 》の半分近くが数塩基から数百塩基のモチーフが何度も登場する繰り返し配列であることが知られています。

 ジャンク DNA とはタンパク質のアミノ酸情報を含まない配列のことをさします。最近になって、役に立たないと考えられていたジャンク DNA に(例えば、体構造のシステムを形成するためのソースが書かれているゲノムがあるなど)さまざまな機能があることがわかり、ジャンク DNA と呼ばれていた一つである偽遺伝子に機能があることがわかる(これについての参考資料:「偽遺伝子の話」「2つのタイプの偽遺伝子」)など、従来考えられてきたような《まったくの役立たずの配列》ではないということがわかりつつありますが、現在でもジャンク DNA の大半はその役割がよくわかっていません。

 ゲノム上の配列としては、アミノ酸をつくる DNA どうしとの間に ジャンク DNA がつなぐようにして配置されています。

 細菌のように無駄のないゲノムであれば、細胞分裂にかかわる時間も資源も少なくてすみます。なぜ、われわれ真核生物はこのような重い荷物を(厳密には寄生生物の細菌まで背負ってまでですが…)毎日、背負って歩かなければならないのでしょう? 

 その答えとして、タンパク質構成に関わる遺伝子のエクソン領域に組み換えが起こる頻度を調節しているのではないかと内藤教授は考えました。

 組み換えとは、有性生殖する生物が卵や省氏などをつくる際に起きる減少で、父親由来の染色体と母親由来の対になる染色体が互いに一部分を交換します。

 この組み換えが種内の遺伝的多様性を高める原動力になると考えられています。種の遺伝的多様性が高ければ、環境が大きく変化してもそれに対応できる固体がいる可能性が高くなり、絶滅を免れやすくなります。

 一方で、エクソンの領域で組み換えが起きすぎると、その遺伝子の単お悪質が作られなくなるなど、固体が生存する上で致命的なエラーにつながりかねません。

 内藤教授は今から 8 年前にスーパーコンピュータを用いて、架空の生物モデルに進化が生じるかどうかのシミュレーション実験を行いました(第 1 回目のヒトゲノム解読の発表より 2 年前であるその当時はゲノム解読が今ほど進んでおらず、また、コンピューターの性能も現在ほど高くなかったので、シンプルなモデル生物となっています)。

 ここでいう「進化」とは、本来の選択圧が掛かり自然淘汰された進化という意味合いではなく、単純な仮定付けが必要であるため(個体数が増えればそれだけ生き残る可能性が高いことから、進化の可能性があると見込んで)、ある固体のゲノムに生じた変化が、その子孫の集団に広がっていくことをさします(つまり、計算しやすく明確にするために、仮想内でのお約束事で仮定付けられたものです)。

 固体で変化が生じても、それが集団内に広がらないものならば(生き残る可能性が低いと単純に仮定付け)「進化していない」と見なしています。

 有性生殖をする生物ではジャンク DNA (イントロンを含む)がないと進化は生じにくいことが、前回のシミュレーションからわかっていたので、進化を起すのに最低必要なジャンク DNA の割合を求めてみたと内藤教授はいいます。

 祖先集団は有性生殖をする固体の割合が 100 % , 50 % , 20 % とし、ジャンク DNA の長さとの関係を見ました。

 ジャンク DNA と進化においては、3 つの仮想的な生物集団を想定し、有性生殖をする固体の割合を変えたその結果、その集団で進化が起きるために必要なジャンク DNA の割合と、有性生殖をする頻度には明らかな相関がありました。

 計算実験を数回試みた場合、同じ祖先集団からスタートしても偶然(どの固体とどの固体が交配するかなど)によって、結果にずれが生じますが、進化が生じるかどうかとジャンク DNA の割合との間には明らかな相関がみてとれたといいます。

 このことは、ジャンクがあることにより、タンパク質合成情報を含むエクソン部分での組み換えが生じる確率が下がるためだと内藤教授は考えます。

 実際に自然界を見ると、哺乳類のように有性生殖しかしない生物種はジャンク DNA の割合が高く、逆に無性生殖と有性生殖の両方を行う種主無性生殖を主に行う種ではその割合は低くなっています。

 それは、単純でシンプルなモデルではありますが、相関性を見るには参考になるモデルです。



 因みに、最近の進化のシミュレーションの報告では、一般的にゲームを通じて行動パターンを研究するケースが多くなっていますが、その中で分子レベルでのシミュレーション結果による報告は貴重なものだと梵は考えています…(^-^)
posted by 梵 at 01:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 梵の研究ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。