2006年04月12日

核酸とタンパク質の構造(3-1)

 前回の「核酸とタンパク質の構造 (2-3)」の続きとなります、今回よりタンパク質の構造と性質の話に入ります…。


タンパク質の構造と性質


タンパク質の構造と性質

 DNA や RNA が情報を担う分子であるとするならば、タンパク質はその情報をもとに作られ、酵素活性を介して細胞内のさまざまな作業を請け負う機能分子とも言えます。

 タンパク質の詳細な構造と機能については、別でも触れるので、ここでは、タンパク質のアルファベットにあたるアミノ酸の基本構造とその結合について主にみることにします。

 自然界には多数のアミノ酸が存在しますが、細胞内でのタンパク質の材料として使われるのは 20 種類の α - アミノ酸に限られます、

 タンパク質の性質を決めるのは、個々のアミノ酸の性質とその並び方です。数万種類に及ぶ酵素活性を実現するものとしては、わずか 4 種類のヌクレオチドしかない核酸より、20 種類の個性をもったアミノ酸の膨大な組み合わせが可能なタンパク質の方が適しています。

 α - アミノ酸の基本構造は、ひとつの炭素原子( α - 炭素)にアミノ基( −NH2 )とカルボキシル基( −COOH )が結合しています。

α - アミノ酸の構造と異性体

 炭素原子には 4 つの共有結合が存在しますが、残りは水素( −H )と様々な構造をもつ側鎖( −R )です。

 アミノ酸の基本的性質はアミノ基とカルボキシル基に存在しますが、それぞれの個性は、側鎖の性質によって決まります。

 アミノ酸には 2 種類の光学異性体( L− , D− )が存在します。

 不思議なことに、現存するタンパク質は、すべて L - アミノ酸でできています。D - アミノ酸だけでもタンパク質は作ることが可能ですが、細胞内の酵素はすべて L - アミノ酸しか認識できません。



(...to be continue...)
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2006年03月31日

核酸とタンパク質の構造 (2-3)

 前回の「核酸とタンパク質の構造 (2-2)」の続きになりますが、今回は、「様々なヌクレオチド分子」と「核酸の調整と測定」についての話をします。



▼様々なヌクレオチド分子

 細胞の中には、DNA や RNA の構成ユニットとして機能する以外のヌクレオチドも存在します。

様々なヌクレオチド

 既に述べた化学エネルギーを供給する ATP 以外に、環状 AMP ( cAMP , cyclicAMP ) は、ホルモンなどの情報を細胞内に伝えるシグナル分子として働きます。また、補酵素 A ( CoA , CoenzymeA ) は、細胞内のいくつかの酵素反応に必要な分子です。

 また、DNA と RNA で使われる核酸塩基は 5 種類に限られると先述しましたが、厳密にいうとそうではありません。例えば、真核細胞の mRNA の 5' 末端は、転写後キャッピング反応で 7 − メチルグアノシンという延期になっています。また、 tRNA や rRNA の中には、イノシン、シュードウリジンといった特殊な構造をしたヌクレオチド(修飾塩基)が多数見られます。

 しかし、これらは通常のヌクレオチドが tRNA に取り込まれた後に、酵素的に修飾を受けたものです。修飾塩基は、tRNA の高次構造の形成などに関係していると言われます。


▼核酸の調整と測定

 研究室の多くでは DNA (や RNA )を調整してその構造を調べることが日常茶飯事でありますが、どのように核酸を調整するのかについては、現在は様々な手法が編み出されていますが、ここでは簡単な方法を挙げることとします。

 例えば、 DNA の調整の仕方を簡単にみた場合、 DNA は通常タンパク質と強く結合しているので、タンパク質を取り除くために、細胞を壊すと共に、タンパク質分解酵素や洗剤で処理します。

 フェノールやクロロフォルムを加えてタンパク質を変性させて取り除き、核酸溶液にエタノールを入れてガラス棒で巻き取ると白色の糸状の物質 DNA が簡単に取れます。

 DNA や RNA の塩基の部分は紫外線(波長 260nm )を吸収する性質があり、分光光度計という装置を使うと核酸の濃度を簡単に測定できます。

 精製された核酸の長さ(分子量)などを解析する手段としてよく使われるのが、ゲル電気泳動です。寒天やアクリルアミドといったゲルは細かな網目構造をしており、大きな分子ほど通りにくい性質を持ちます。

 DNA や RNA は、1 ヌクレオチドあたり必ず 1 個の負に荷電したリン酸基があるため、プラス方向に向かって移動します。泳動槽の中で電場をかけると、DNA や RNA の長さに従って分けることができ、分子生物学的手法の中でも最も頻繁に使われる手法とされます。



(...to be continue...)

 次回から「タンパク質の構造と性質」の話になります。
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2006年03月09日

核酸とタンパク質の構造 (2-2)

 先月何かとごたついたので、途中まで作っていたものを危うく忘れるところだった梵です…。

 先月作っておいたものに1項目を足したものではありますが…。

 前回の「核酸とタンパク質の構造 (2-1)」の続きです。



▼ヌクレオチドの結合:リン酸ジエステル結合

 ヌクレオチド同士はリン酸ジエステル結合という特有な形式でお互いに連結していきます。

リン酸ジエステル結合と5'-末端、3'-末端の形成


 この連結過程は、核において DNA ポリメラーゼ(複製)や RNA ポリメラーゼ(転写)が行います。エステルとは酸とアルコール( −OH )が脱水重合した構造です。1つ目のヌクレオチドの 5' の位置の −OH と2つ目のヌクレオチドの 3' の −OH がそれぞれリン酸の2箇所の H と脱水重合しています。間にはさまるリン酸基の数は必ず一つです。

 このようにヌクレオチドを結合していくと異なる2つの末端が生じます。隣に結合していない 5' −OH と 3' −OH をそれぞれ 5' −末端、3' −末端と呼びます。

 DNA や RNA の芳香性は極めて重要で、転写や複製はポリメラーゼの性質から 5' から 3' 方向にしか起こりません。普通、 5' −末端を左、 3' −末端を右に書くならわしですが、文章と同様に読む方向を間違えると情報として意味をなしません。

 このようにして出来た格さんはヌクレオチドの繋がった数によりその大きさを示すことが多くあります。例えば、100個のヌクレオチドからなる DNA は 100bp ( base pair :塩基対)、RNA は 100 nt (ヌクレオチド)若しくは 100b ( base :塩基)などと呼ばれます。


▼塩基対の形成

 DNA と RNA の大きな違いは、前者は普通2本鎖の状態で存在することです。1953年に Watson と Crick は有名な DNA の二重鎖モデルを発表しましたが、このモデルには DNA の2つの特徴が含まれています。

塩基対の形成とDNAの二重構造

  1. ワトソン−クリックの塩基対

  2.  二重鎖の中で、アデニン( A )とチミン( T )、グアニン( G )とシトシン( C )は水素結合により、強く結びつく性質があります。この特異的な結合を塩基対と呼びます。

  3. 逆平行の二重鎖

  4.  DNA は一見同じ方向にからみついているように見えますが、実際には2本の DNA 鎖は 5' から 3' に向かう方向性が逆になっています。同じ向きでは決して塩基対が形成されない点に注意する必要があります。

 ワトソンとクリックの塩基対は、DNA 分子と RNA 分子、もしくは RNA 分子と RNA 分子の間にでも成立します、この場合、A と U (ウラシル)が塩基対を形成します。

 お互いの核酸分子が塩基対を介して結合し合う性質を 相補性 と呼び、複製や転写の時には相補性に従って、ポリメラーゼが塩基を連結していきます。また、1本鎖の RNA も局所的に塩基対を形成するため、 tRNA や rRNA などでは複雑な「ステム−ループ構造」が生じます。

 先に挙げた、ワトソンとクリックの塩基対や DNA の二重鎖構造のポイントを述べた (1) と (2)
の性質から、DNA は何故か螺旋の進行方向に向かって右巻きになるのが一般的です。約 10 塩基で螺旋は一回転しますが、DNA を横から見ると平均に巻いているわけではなく、大きな溝と小さな溝が交互に繰り返しています。

 RNA はふつう1本鎖ではありますが、 RNA 分子内で塩基対を形成して複雑な構造をとることが多くあります。



(...to be continue...)
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2006年02月04日

核酸とタンパク質の構造 (2-1)

 「核酸とタンパク質の構造 (1)」の続きの話です。前回は《生体高分子としてのタンパク質と核酸》の話をしましたが、今回は《核酸( DNA と RNA )の構造と性質》の話をします。



核酸核酸( DNA と RNA )の構造と性質

 核酸核酸( DNA と RNA )の構造と性質については、「核酸の基本ユニット:ヌクレオチド」、「
ヌクレオチドの結合:リン酸ジエステル結合」、「塩基対の作成」、「様々なヌクレオチド分子」、「核酸の調整と測定」の5回に分けて解説していきます。


核酸の基本ユニット:ヌクレオチド

 核酸には、DNA (デオキシリボ核酸、Deoxy - ribo Nucleic Acid の略が DNA )と RNA (リボ核酸、Ribo Nucleic Acid )という2種類があります。いずれも4種類の特徴的なユニット(ヌクレオチド、nucleotide )からできており、細胞の中で主に情報の保存、伝令する分子として働いています。

 DNA と RNA で使われている4種類のヌクレオチドは、さながら細胞内の情報を記載するためのアルファベットのようなものです。分子生物学では、この情報分子の構造や名称を正確に理解しておくことが重要であるので、少し詳細に説明します。

 ヌクレオチドは、核酸塩基、糖(リボースもしくはデオキシリボース)、リン酸の3つのパートに分かれています。

ヌクレオチドの構造

 核酸塩基は、5種類に限られ、それぞれアデニン( A , adenine )、グアニン( G , guanine )、シトシン( C , cytosine )、ウラシル( U , uracil )とチミン( T , thymine )と呼ばれます。このうち、U は RNA だけに、T は DNA だけに見られる塩基です。

 環状構造が似た前の2つ( A と G )は「プリン塩基」、残りの3つ( C と U と T )は「ピリミジン塩基」に分類されます。

 糖は5つの炭素原子を含み(5炭糖)、その2位の炭素に水酸基( −OH )の結合したリボースと水素基( −H )の結合したデオキシリボースがあります。リボースは RNA のみに、デオキシリボースは RNA のみに使われます。 −H と −OH といった一見わずかな違いに見えますが、RNA はこの −OH のためにアルカリに極めて弱く、核酸の繋がりが切断されてしまいます。したがって、生物の多くは DNA を遺伝子として採用しています。

 糖の1位の炭素に塩基の結合した状態を「ヌクレオシド」と呼びます。例えば、アデニンはリボースと結合してアデノシンといいます。

  参考資料:「ヌクレオチドとヌクレオシドの名称

 さらに、「ヌクレオシド」にリン酸が結合したものを「ヌクレオチド」と呼び、アデノシンの5位の炭素の位置(ヌクレオチドでは塩基の番号と区別するために 5' (プライム)と呼ぶ)に、リン酸基が1つ付いたものを「アデノシン― 5' ・ 3 リン酸 ( Adenosine Mono Phosopate , AMP )と呼びます。

 生体内でエネルギーを蓄積する ATP (アデノシン― 5' ・ 3 リン酸: Adenosine Tri Phosopate )は、アデノシンの 5' にリン酸基が3つ付いた分子です。ATP のリン酸基が加水分解して切り離す際に放出するエネルギーは、様々な生合成に使われることから、ATP を「エネルギー通貨」などと言われます。糖が「デオキシリボース」のときは、「リボース」と区別するために、デオキシアデノシン3リン酸( dATP )などと呼びます。

 ヌクレオチド自体は、細胞の中でグルタミンなどのアミノ酸や単純な糖を原材料にして複雑な生合成過程を経て作られるか、細胞の中で核酸が分解されたものを再利用する形で得られます。



(...to be continue...)
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2006年01月22日

核酸とタンパク質の構造 (1)

 細胞には様々な物質が含まれますが、その中でタンパク質と核酸は最も重要な分子であると言えます。核酸( DNA と RNA )は細胞中の情報の保存・伝令を司り、タンパク質は細胞の代謝・活性を制御する機能的分子であるとも言えます。

 すべての生物で、基本的にはタンパク質は20種類のアミノ酸から、DNA と RNA はそれぞれ 4種類のヌクレオチドからできています。本章では、核酸とタンパク質の構造と性質を、主にその構成成分に着目して見ていきましょう。


▼生体高分子としてのタンパク質と核酸
  1. 生体高分子とは何か


  2.  生物と非生物の違いとは何か? …と問われれば、様々な答えが考えられますが、両者を構成している原子を比較すると、大きな違いが見られます。生物体内では H (水素)原子や C (炭素)原子が多く存在しますが、それらは土の中ではほとんど存在しません。

     これは、生物が生存するために必要な、C や H を中心とした有機化合物を大量に含むためのもので
    す。生体や細胞内には、水以外に、イオン、金属、塩などの単純な構造をした物質が含まれます。しかし、細胞を構成する分子の特徴は、核酸、タンパク質、糖質、脂質といった大きな有機化合物を含むことにあります。

    生物を構成する原子と分子の比率

     例えば、ヒトの1本の組織体 DNA をそのまま糸のように引き伸ばせば、数 cm の長さになります。水分子も染色体 DNA も分子としては1個となります。ヒト染色体 DNA 1分子の分子量は、水分子の1億倍に達します。

     生体高分子とは、非生物には見られない生物に特有な巨大な分子を指します。生体高分子は大別すると、「多糖」、「タンパク質」、「核酸」の3種類で、それぞれ単純なユニット的分子が結合したものです。これらの脂質の分子量は、生体高分子というほど大きくはありません。

     多糖は単糖、タンパク質はアミノ酸、核酸はヌクレオチド、という構成分子からできています。構成ユニットとしての単糖は種類が多く、結合の仕方も複雑(分枝状など)であるのに対し、アミノ酸は基本的に20種類、ヌクレオチドは5種類で、直列状にのみ繋がります。この違いは、「生物と非生物(生物・土壌)原子の組成構造」や「バクテリアの中に含まれる分子種類」等の、合成の仕方の違いを反映しています。


  3. 生体高分子の合成と遺伝情報


  4.  細胞を構成する大きな分子の多くは、細胞外から取り入れた単純な物質を元に、酵素の力を借りて細胞内で加工して作られます(これを、生合成 とよぶ)。

     例えば、脂質や多糖類は、細胞質やミトコンドリア内で、数十から数百の酵素が関わり、最終的に複雑な構造が出来上がります。酵素、つまり、タンパク質の情報はすべて遺伝子 DNA 上に記載されています。

     DNA の A , G , T , C という塩基の並び方は、直接的にはこのような酵素の構造や発現についてのみ情報を与えますが、結局は酵素活性を通して間接的に、細胞内のあらゆる物質の構造と発現を規定していることになります。

     細胞中で物質を作る(生合成)には膨大なエネルギーを必要とするために、細胞は核酸やタンパク質を、必要最小限な種類・量を極めて注意深く合成するように(システム化)しています。

     一方、生体高分子の中でもタンパク質と核酸は、脂質や多糖などと作り方が全く異なります。

    生体分子の生合成と遺伝情報

     真核細胞では DNA と RNA の構成ユニットの結合(翻訳)は細胞質のリボソーム上で起こります(:但し、ミトコンドリアなどは例外とします)。

     複製・転写・翻訳は、極めて統計だったルールに則り進行し、そのメカニズムはある意味では単純です。「核酸とタンパク質を作る」というプロセスのルールを知ること自体が、分子生物学の中心的な課題であると言えます。

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2006年01月18日

これまでのポストゲノムの課題

 これまで分子生物学にの本題に入る前に、第1回目の「分子生物学の成立」、第2回目の「分子生物学と生化学」、第3回目の「現代の分子生物学」と見てきましたが。もう少し基礎固めとして、「これまでのポストゲノムの課題」をざっと追って見ましょう。

 現代の分子生物学、というよりはむしろ現代の生物学はゲノムを抜きにしては語れませんし、分子生物学の将来も生物学の近未来も、ポストゲノム時代への視座を欠いては成り立ちません。

 ゲノムとは、1つの生物が命を維持し、かつ子孫を残すのに最小限必要な遺伝子の総和、或いは、それらを含む DNA のことです。

 1980年代までの文政生物学の研究対象は、主に個別の遺伝子でしたが、それ以降はしだいにゲノムへと研究の軸足が移動してきました。ゲノムを知ることは、即ち、1つの生物のもつ遺伝子レパートリーを知ること、つまり、その生物の全設計図を手に入れることですから、個々の遺伝子を知ることとは全く意味が違うものとなっています。

 ある生物のゲノムのあり方を知りたいときにまず行うのは、それがもつ DNA の塩基配列を端から端まで全部きめることです。次には、塩基配列を特徴を頼りに、どこにどの遺伝子が配置されているのかを知り、さらにそれらがどのような働きをする遺伝子であるかを推定します。この一連の作業を ゲノム解析 といいます。

 ちなみに、1997年にゲノム解析が終わった大腸菌では、約 4.7 * 10^6 塩基対のゲノム DNA に、およそ 4300 種類の遺伝子が含まれていました。2004年秋の段階で、ゲノム解析の終わった生物は、細菌を中心に、およそ 200 種であり、その中にはヒトゲノムも含まれています。

 技術の急速な進歩も手伝って。ゲノム解析された生物の数は指数関数的に増加しつつあり、この意味では、現在はゲノムの時代といえそうではあります。

 2004年以降からのこれまでの最新の情報では、さらに加速度を増し、詳細な研究が進められていますが、その中でもこれまでの定説を変えるまでの大きな解明といえば、RNA の厳密かつ高機能なシステムでジャンクDNA が実は、生命維持するに重要なものであったということが分かってきたことです(ジャンク DNA についての詳細については、後日どこかで記述する予定です)。従来までの DNA の研究以外も RNA の研究もかなり進んでいます。


 上の説明からわかるように、ゲノム解析で知ることができる、もっとも重要なことは、1つの生物がどのような遺伝子をもっているかであります。しかし、遺伝子が存在するということと、それが働くということは別の問題となります。

 ゲノム解析で、ある生物の細胞内にあるとわかった遺伝子が、いつどこでどのように働いているかを知ることが、ポストゲノム(ゲノム解析以後の)時代の最大の課題となります。ある遺伝子が働いているかどうかは、細胞内にそれに対応する RNA やタンパク質があるかないかで判断できます。

 1つの生物(細胞)がもつ全遺伝子レパートリーはトランスクリプトームとプロテオームと呼ばれています。ゲノムは、個体内で時と場所によらず一定ではありますが、トランスクリプトームとプロテオームは時々、刻々と、また、場所によっても大きく変わります。それらの変化を網羅的に調べる目的で、現在では、トランスクリプトームやプロテオームを効率よく分析する技術が開発されています。

 ポストゲノムの研究は、人類の切実な関心事である医療にも直接関連します。病気には遺伝子そのものの欠陥が原因であるものもありますが、それよりも多いのは、遺伝子は正常であって、生活習慣の原因やストレス、等、何らかの原因でその働きが抑えられたり、過剰に働いたりする場合です。なぜ、ポストゲノムがこれまで重要視されてきたかについては、トランスクリプトームやプロテオームを分析すれば、どの遺伝子の働きが異常であるのかがわかるからです。このことから、その病気への適切な対処が可能になると期待されています。
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2006年01月15日

現代の分子生物学

 初期の分子生物学では、大腸菌などの細菌類やウイルスを使って生物の共有する法則性を明らかにする時代が20年ほど続きました。この時代に発見された法則は、今でも分子生物学の重要な基礎となっているものが少なくありません。

 しかし、1970年代になって、分子生物学の研究材料が、単純なウイルスや細菌から複雑な動植物へ拡大したのと軌を一にして、大腸菌からヒトまで、あらゆる生物に通用すると思われていた法則の中に、いくつかの例外が見つかり始めました。

 例えば、かつては遺伝子情報は DNA → RNA の方向にしか流れないと考えられていましたが、1970年には RNA → DNA という流れもあることがわかりました。また、それまでは、遺伝子は DNA 状の連続した塩基配列からなると信じられていましたが、1970年代後半になると、多くの生物で遺伝子は DNA 上に分断された状態で存在することが明らかになりました。

 このように、生物のもつ法則性にも、さまざまな適用範囲のもののあることがわかってきました。このため、あらゆる生物たちを統一する的に語るためのキーワードを求めて生まれた分子生物学は、今では一見逆に、生物多様性の裏づけを探る有力な手段ともなっています。

 現代の分子生物学のもつ、もう一つの大きな特徴は、自らの分散化です。1950年代には、遺伝子はもとより、分子と分子の相互作用によって生命現象を説明する分野は皆無でした。分子生物学が独立した分野として生み出された理由はそこにあります。

 しかし、現在では、細胞の働きを調べるにも、発生のしくみを理解するのにも、生物学の大部分を分野は遺伝子とタンパク質の研究を主な手段としています。一般には分子生物学と最も縁が薄いと思われがちな生態学や社会生物学でさえも、今では分子生物学の助けを借りる場面がよくあります。

 現在では、生物学の各分野が、それぞれに分子生物学の技術と考え方を取り入れて大きく変わったと見ることができます。その意味では、独立した分野としての分子生物学は、既に発展的に解消したと見る人々も少なくありません。

 研究材料の多様化も、現代の分子生物学の大きな特徴の一つです。これは上に述べたような他分野との提携の必然的結果であり、研究対象とする生物現象に応じて使いやすい材料が選ばれた結果です。それらの代表格は、マウス、ショウジョウバエ、センチュウ、シロイヌナズナ、酵母などのいわゆる「モデル生物」でありますが、但し、それらのモデル生物はあくまでもモデルに過ぎません。現代ではモデル生物の間のギャップを埋めるようにかつては考えられなかったような生物たちも、目的に応じて分子生物学の材料となっています。
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2006年01月11日

分子生物学と生化学

 現代生物学は分子生物学と生化学の提携して得た根拠や知識をもとに成り立ち、現代生物学の中心的位置を占めています。

 一番小さいものを扱う生物学の分野は生化学だと前に何処かで話しましたが、物理学の理論でいう相対性理論・量子理論、ひも理論・ M 理論…といったような使われ方や構成とは違って、現代生物学である場合、共有している分野が多く、生体の構造となる研究対象の規模や座標が違うだけの(底辺は同じくする)学問であるため、認識や理解の誤差が生じやすいものでもあるので、ここでは、分子生物学と生化学の違いについての話をしていきます。



▼分子生物学と生化学

 生物学の1分野として知られているものの中に「生化学」があります。生化学はもともと生物学の1分野として扱われ、その歴史は分子生物学とは比べ物にならないほど古いものですが、どちらも生物体内の「分子」を研究対象にするという共通点をもっています。

 このため、この2つの分野がどう違うのかという疑問が上がることがあるのも加味し、ここでは、これら2つの分野の関係を簡単にまとめておくことにしましょう。

 これは、生物学に限ったことではありませんが、研究分野の境界は、国境線とは違うものでありますから、ある線から左側が分野 A であり、右側は分野 B であると単純に分割はできません。とりわけ分子生物学のように、新しく生まれた分野は生化学を始め、多くの分野と重なり合う部分を少なからずもっています。しかし、それぞれの分野には当然中心となるもの(意図としている視点の座標の違い)があります。

 分子生物学の中心は、対象とする現象は遺伝、扱う材料は核酸( DNA と RNA )およびタンパク質です。他方、生化学の中心は、対象とする現象は代謝、扱う材料はグルコースやピルビン酸など多数の、比較的分子量の小さい化学物質です。但し、くどいようですが、これらはあくまでも「中心」としている座標なるものです。

 しかし、実際には、その構造を明快に根拠となるものを表すために、遺伝現象に直接関係のない分子生物的研究も生化学にとっは少なくないものですし、生化学の研究では代謝に関係のないものの方が多いものとなっています。いずれにしても、分子生物学と生化学は互いに提携しながら、現代生物学の中心的位置を占めています。
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2006年01月07日

分子生物学の成立

 ヒトゲノムが解読されて以来、2003年に生物学全体が大幅に改定され、今やゲノムが定着しておりますが、このゲノムがどの学問に属するのかといえば、分子生物学です。

 ヒトゲノムが解読される以前の話では、分子細胞学どといった分野や生化学で分子ベースの研究が行われ、専門テキストもいくつか出ていましたが、梵が興味をもって読み漁っていた世紀末前では、一般的に知られていなかったからか、分子構造を基本とした生物学の知見は風当たりが強く、「ゲノム野郎!」などとも言われ、科学の討論では寒い思いをしたこともある梵です…(T^T)

 だけど、全体的な構造を、知れば知るほど、ミクロな分子を知ることは、とても面白いものなのです…(〃▽〃)

 現在の梵はゲノムより、さらに小さいものを扱う分子な生化学に興味をもっています。化学物質の詳細な構造を知ることは、さらにゲノムの構造を解明することに繋がります。分子構造と化学物質の構造を知ればもっと理解が深まります。これに物理学的な知見が加わればもっと理解が深まります。これに工学なんかが加わると、複雑系生物学になりますね…(〃▽〃)

 まぁ…。小十郎のおねだりに、ちと躊躇した梵でありましたが、時代も時代なので、やっぱりはじめることにしました。

 さて…。前置きで、むにゃむにゃ…としてないで、はじめますか…。



▼分子生物学の成立

 分子生物学の出発点は DNA です。DNA は、1869年にスイスの生理化学者ミーシャーが、細胞の核と細胞質に含まれるタンパク質の違いを研究している際に、偶然に発見した巨大分子です。

 このように物質としての DNA は、今から130年以上前に既に発見されていましたが、その役割が遺伝子であることがはっきり証明されるまでには、それから80年以上もの歳月を要しました。

 「遺伝子」は、もともとメンデルがエンドウを用いた実験結果を説明するために導入した概念です。彼は親子から子へ形質(形と性質)を伝える物質があると仮定して、それを遺伝子(当時は「要素」)と呼びました(1866年)。

 ミーシャーの DNA とメンデルの遺伝子は、ほぼ同じ時期に発見されながら、2つが結びつくまでに、何故80年も要してしまったことについては、その理由の1つとして、メンデルの論文が30年以上も埋もれていたことですが、それ以上に重要な理由が他にも2つあります。1つは、遺伝の研究と DNA の研究が全く意図の違う研究で、全く別々の人々によって異なる場所で行われていたことであり、もう一つの理由は当時の科学者の先入観が壁となりました。

 20世紀半ば、タンパク質の多彩な機能が次々と明らかにされていった時代であったため、その影響で多くの人々が遺伝子も当然タンパク質でできていると信じていました。

 この人々によって信じられてきた壁をどうやって崩してきたのでしょう? これから見ていきましょう。

 上で述べたように、生物の形質を決めているのは遺伝子です。従って、生物や細胞に、ある物質を入れたときに、それらの形質が変われば(これを形質転換といいます)、その物質が遺伝子ということになります。

 遺伝子の本体を突きとめる研究は、そのような方針で進められましたが、その口火を切ったのはグリフィスの実験(1928年)でした。彼は、肺炎双球菌がネズミの体内で形質転換を起こすことを示しました。さらに、1944年になると、アベリーらが肺炎双球菌の抽出物を DNA 分解酵素で処理すると形質転換が起こらなくなるのを示しました。

 遺伝子が DNA からなることが最終的に証明したのは、1952年になされたハーシーとチェイスによるファージーを使った巧妙な実験でした。ワトソンとクリックが、DNA の構造に関する二重らせんモデルを発表したのは、この翌年1953年のことです。そのため、この1953年をもって「分子生物学」は始まったとみなされることが多いです。

 こうして、分子生物学は DNA をキーワードとして、生物全体に共通する基本法則を探求する分野として生まれました。研究が進むにつれて、多様な外見とは裏腹に、生物たちは単に DNA を共有するだけでなく、遺伝子やタンパク質の働きから生命を維持し子孫を残すしくみまで、共通する法則性を非常に多くもつことが明らかになっていきました。

 さて…。「科学」とは一言でいえば、さまざまな現象や物事に共通する法則性を明らかにしようとする営みのことです。その意味で、生物学は分子生物学という分野を立ち上げることによって、本当の意味での科学になったのだと言えます。
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